預貯金は代表的な相続財産の一つです。家族が亡くなり相続が発生した場合、預貯金の分割方法について理解し、最適な方法を選択することが重要です。預貯金には複数の分割方法が存在するため、その特徴を把握することが役立ちます。今回は、遺産相続における預貯金の分配方法や手続きの流れ、注意点について詳しく解説します。
預貯金は遺産分割の対象となる財産のひとつ
遺産分割は、故人が所有していた財産を複数の相続人で分割するプロセスです。遺言書が存在する場合はその内容に基づいて分割が行われ、遺言書がない場合は相続人同士が協議し、遺産の分配方法を合意しなければなりません。
かつては預貯金が「遺産分割の対象外」と見なされ、法定相続分は個別に払戻しが可能でした。しかし、2016年(平成28年)に最高裁判所が「預貯金も遺産分割の対象である」とする判決を下したため、現在では遺産分割協議において預貯金の分配方法を話し合い、合意することが可能となっています。
預貯金の分け方
預貯金の相続には、以下の三つの方法があります。
預金口座ごとに分割する
被相続人が複数の預金口座を所有している場合、各口座を相続人に割り当てます。例えば、A銀行の口座を配偶者、B銀行を長男、C銀行を長女に割り当てるといった方法です。各相続人は自らの口座の払戻しを行いますが、口座残高に差がある場合は不公平が生じる可能性があります。不公平を解消するためには、預貯金以外の財産で調整する必要があります。
払戻し後に現金を分割する
被相続人が所有していた預金口座を解約し、払戻し後の現金を相続人が話し合って分割します。預金口座ごとに分割する方法に比べて、不公平が生じにくい手法です。預貯金の払戻し手続きは金融機関ごとに異なりますので、相続が発生したら早めに問い合わせが必要です。
代償分割を行う
代償分割は、相続人の一人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払って清算する方法です。複数人で分割が難しい財産や状況によっては預貯金を分割する際にも有効です。例えば、預貯金3,000万円と株式1,000万円のケースでは、代償分割により公平な分割が可能ですが、手続きが複雑であり、専門家の協力が必要です。
預貯金の相続手続きは、以下の手順に従って進められます。
預貯金の相続手続きの流れ
相続人を確定させる
被相続人が亡くなったら、まず相続人を確定させる必要があります。法定相続人は民法で規定されており、常に相続権を有するのは法律上の配偶者です。ただし、内縁関係の場合は法定相続人には含まれませんので、注意が必要です。法定相続人の順位は以下の通りです。
- 第1順位:死亡者の子供
- 第2順位:死亡者の父母や祖父母(直系尊属)
- 第3順位:死亡者の兄弟姉妹
遺言書が存在する場合は、その内容により法定相続人以外が指定される可能性がありますので、確認が必要です。再婚や養子縁組の場合は、相続関係が複雑化する可能性があるため、慎重に対応することが重要です。
預貯金の口座や残高を確認する
相続人が確定したら、被相続人が保有していた預貯金の口座や残高を確認します。この情報は相続手続きを進める上で重要です。
遺産分割協議を行う
相続人間で遺産分割協議を行います。これには預貯金の分割方法について合意することが含まれます。公平かつ円滑な分割を目指し、相続人全員が納得できる協議が求められます。
預貯金を分割する
遺産分割協議で合意が得られたら、預貯金を各相続人に分割します。手続きは金融機関により異なるため、相続発生後早めに金融機関に問い合わせることが重要です。
これらの手順を迅速かつ慎重に進め、公正かつ円満な相続手続きを行うことが大切です。
預貯金相続に必要な書類一覧
預貯金を相続する際には、金融機関に提出する主な必要書類があります。以下、その一覧を紹介します。
遺産分割協議書
遺産分割協議書は、相続人同士が合意した遺産分割の内容をまとめた書類です。この書類は相続人全員の合意が必要で、特定の様式は決まっていません。ただし、相続人全員の署名と実印の押印が必要です。
被相続人の戸籍謄本
被相続人の戸籍謄本は、金融機関が被相続人の死亡事実や法定相続人を確認するために提出されます。出生から死亡までの継続的な戸籍謄本が必要で、被相続人や相続人の状況により用意すべき書類が異なります。具体的な要件については金融機関の担当者に確認してください。
相続人全員の戸籍謄本
被相続人だけでなく、相続人全員の戸籍謄本も必要になります。これにより、金融機関は法定相続人を確認することができます。
相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書も用意が必要です。未成年者の相続人がいる場合は、親権者や代理人の印鑑証明書も求められることがあります。
預貯金の遺産分割における重要事項
預貯金の遺産分割に関する重要な注意点を以下に述べます。
被相続人の預金口座は凍結される
被相続人(口座名義人)が亡くなると、金融機関に通知すると預金口座は原則として凍結されます。遺産分割が完了するまで、預貯金の引き出しは認められません。
凍結前の預金引き出しは相続トラブルの原因になる?
被相続人の預金口座が凍結される前に、急いで預金を引き出すことは避けるべきです。被相続人の預貯金は遺産分割の一環であり、他の相続人との共有財産です。凍結前に引き出すことは相続トラブルを引き起こす可能性があります。相続財産の公平な分割のためには、正式な手続きを待つべきです。
生活費や葬儀費用が必要な際は、「払戻し制度」を活用する
通常、預貯金は遺産分割が完了するまで引き出すことができませんが、2019年(令和元年)7月から導入された「相続預金の払戻し制度」により、特定の条件下で一定額の払戻しを受けることが可能です。
この制度を利用するには、本人確認書類に加えて所定の書類が必要です。払い戻された預貯金は、相続人が取得する財産として遺産分割の際に考慮されます。具体的な利用可能な条件や手続きについては、被相続人の預金口座を管理する金融機関に問い合わせて確認しましょう。
まとめ
預貯金の引き出しにおいても、相続の手続きをするとなると様々な書類が必要となってくることがおわかりいただけましたでしょうか?
自分でできる手続きだからこそ、時間をかけてじっくりとやってみるのも良いかもしれません。
時間がない場合やなにかトラブルに巻き込まれているときには、専門家を頼ってみるのも手段として考えてみては良いと思います。