相続財産には、自宅の敷地や賃貸事業用の土地などが含まれることが多く、所有者が亡くなると相続登記が必要です。これまで相続登記は放置しても行政罰がありませんでしたが、2024年から相続登記が義務化され、罰則も科されるようになります。そのため、自分で相続登記を行いたいと考える方も多いでしょうが、実際に可能でしょうか?
今回は「自分で行う相続登記」をテーマに、手順や必要書類などを詳しく解説します。
相続手続きを自分でできるケース・難しいケース
相続手続きを自分で進めようとしても、途中で行き詰まり、挫折してしまうケースは少なくありません。それまでの時間や労力が無駄になることを避けるためにも、最初に判断基準を持っておくことが重要です。以下に、自分で相続手続きを進められるケースと、専門家に任せた方が良いケースをいくつかご紹介します。
自分で相続手続きを始めても良いケース
自分で相続手続きを進めるかどうか迷うこともあるでしょう。しかし、次のような条件が揃っていれば、自分で手続きを始めても問題ないでしょう。
- 相続人が配偶者と子どもだけの場合
- 時間に余裕がある場合
- 根気強く対応できる場合
相続人の関係が複雑になると、書類の準備だけで挫折してしまうこともあります。また、役所への手続きは基本的に平日の昼間に行う必要があり、時間の余裕がなければ手続きを進めるのが難しいです。手間や専門知識も必要になるため、根気強さが求められます。これらが揃っていない場合、自分での手続きは難しいかもしれません。
相続手続きを専門家に依頼した方が良いケース
複雑な相続手続きは、素人が対応するのが難しく、進め方が分からずに手続きが途中で停滞することも少なくありません。以下のようなケースでは、途中で挫折する可能性が高いため、最初から専門家に依頼することを考えた方が良いでしょう。
- 兄弟姉妹の相続や代襲相続が発生する場合
- 相続人同士の仲が悪い場合
- 相続登記を放置していた不動産がある場合
- 特殊な遺産分割を行う場合
- 相続登記を急ぐ必要がある場合
- 遠方にある不動産を相続する場合
- 保存期間を過ぎた書類がある場合
それでは、これらのケースについて詳しく見ていきましょう。
兄弟姉妹の相続や代襲相続が発生する場合
配偶者と子供だけの遺産相続と比べ、兄弟姉妹の相続や代襲相続は、必要な書類が非常に多くなります。たとえば、兄弟姉妹が相続人となるケースでは、以下の書類が相続手続きに必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍
- 相続人の現在の戸籍(被相続人の子供が死亡していた場合、その子供の死亡が分かる戸籍)
- 被相続人の親や祖父母の死亡が分かる戸籍(被相続人が養子の場合は、実の親や祖父母の死亡が分かる戸籍)
配偶者と子供だけの場合には、主に(1)と(2)の書類を準備しますが、兄弟姉妹や代襲相続が絡むと、収集する書類の範囲が一気に広がります。これにより、複数の役所を回る必要が出てくるため、「自分でできるだろうか?」と不安を感じた場合には、専門家に依頼することも検討するべきでしょう。
相続人同士の仲が悪い場合
複数の相続人がいる場合、本来なら書類の収集などを分担できるはずですが、仲が悪ければ協力を期待するのは難しいでしょう。非協力的な相続人がいると、遺産分割協議が進まず、相続手続きがなかなか終わらない可能性があります。
相続登記を放置していた不動産がある場合
ご先祖名義のまま長期間放置されている不動産は、決して珍しくありません。しかし、相続登記を進める際には、場合によっては戦前の旧民法に基づく手続きが必要になることもあります。法律の解釈には専門知識が求められ、さらに戸籍を辿るだけでも非常に手間がかかる作業となるでしょう。
特殊な遺産分割を行う場合
相続財産の大半が不動産の場合、代償分割や換価分割といった方法を取ることが考えられます。代償分割は、不動産を相続した人が他の相続人に金銭を支払うものであり、換価分割は、不動産を売却して得た金銭を分配する方法です。しかし、遺産分割協議書の書き方を誤ると贈与税が発生するリスクがあるため、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
相続登記を急ぐ場合
相続した不動産は、名義を相続人に変更しないと売却ができません。相続税の納税資金のために売却を急いでいる場合や、不動産会社から急かされている場合は、相続登記を迅速かつ確実に済ませる必要があります。仕事が忙しく、自分で対応するのが不安な方は、司法書士に依頼することも考慮しておくと良いでしょう。
遠方の不動産を相続する場合
自分が住んでいる地域と相続する不動産の所在地が遠く離れている場合、評価額の判断や法務局での手続きが難しくなることがあります。時間を確保するのが難しい方は、専門家に依頼するのが賢明かもしれません。
保存期間が過ぎた書類がある場合
相続手続きでは、戸籍の附票などの書類を提出する必要がありますが、これらの書類は永続的に保存されているわけではありません。すでに廃棄されていることもあります。その場合、代わりに不動産の登記済証や登記識別情報通知の写しなど、追加の書類を提出する必要があります。法務局との調整も必要になるため、自分で対応するのが不安な場合は、専門家に相談することをおすすめします。
相続登記の3種類
相続手続きにはさまざまな種類がありますが、その中でも特に複雑なのが相続登記です。ここでは、相続登記の概要について説明します。
不動産の相続登記は主に以下の3つのパターンに分けられます。それぞれの手続きには、遺言書の有無によって準備する書類や手続きの流れが異なりますので、遺言書があるかどうかを必ず確認しておくことが重要です。
遺言に従って相続する場合
被相続人が遺言を残している場合、原則としてその遺言に従って財産を分配します。ただし、公正証書遺言以外の遺言は家庭裁判所での検認が必要となりますので、発見した際にはすぐに開封せず、手続きに従ってください。また、相続人全員が遺言内容に納得しない場合は、遺産分割について話し合いを行うことも可能です。
遺産分割協議による相続の場合
遺言書に相続人全員が反対する場合や、遺言書が存在しない場合は、相続人全員で遺産の分け方を決定する必要があります。この手続きを「遺産分割協議」と呼びます。協議が終わった後には、遺産分割協議書を作成し、相続登記に必要な情報を記載します。この書類には、誰がどの不動産を相続するかを明記し、相続人全員の署名と実印の捺印が必要ですので、忘れずに準備してください。
法定相続分による相続の場合
民法では、各相続人が受け取るべき割合を「法定相続分」として定めています。遺言書がない場合や、遺言内容に従わない場合は、法定相続分に基づいて遺産を分けるか、遺産分割協議を行うことになります。法定相続分は、相続順位に応じて以下のように定められています。
- 配偶者と子供が相続する場合:配偶者が1/2、子供が残りの1/2(子供が複数いる場合は均等に分割)
- 配偶者と被相続人の親または祖父母が相続する場合:配偶者が2/3、親が1/3(父母が共に生存している場合は1/2ずつ)
- 配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続する場合:配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4
法定相続分に従って財産を分ける場合、遺産分割協議書は必要ありませんが、不動産を「共有」することには注意が必要です。共有状態では、全ての共有者の同意がなければ利用や売却ができず、相続を繰り返すごとに共有者が増える可能性があります。
自分で相続登記を行う流れ
相続登記は複雑に思えるかもしれませんが、条件がシンプルであれば自分でも手続きが可能です。以下のステップに沿って進めるとスムーズに行えます。
- 相続財産の特定
相続する財産を把握し、リスト化します。 - 被相続人の戸籍収集(相続人調査)
被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集し、相続人を調査します。 - 相続人の確定および必要書類の収集
確定した相続人に関する必要書類を揃えます。 - 遺産分割協議書の作成(遺言がない場合)
遺言がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、協議書を作成します。 - 登記申請書の作成および申請
登記申請書を作成し、必要な書類を添付して法務局に申請します。
相続財産の特定
不動産の相続手続きでは、所在地や面積、権利関係を明確にするために、以下の書類を取り寄せる必要があります。
- 土地の登記事項証明書(全部事項証明書)
取得先: 法務局 - 登記済権利証、登記識別情報、登記完了証
取得先: 法務局 - 固定資産税納税通知書
取得先: 役所の担当部署 - 土地の名寄帳
取得先: 役所の担当部署
戸建ての場合は土地と建物それぞれの登記事項証明書を取り寄せる必要がありますが、マンションの場合は土地と建物が一体となっている場合や別々に登記されている場合があります。
被相続人の戸籍などを収集
被相続人の戸籍を集める作業は最も手間がかかります。相続手続きでは、被相続人の死亡や相続人の範囲を証明するために、次の書類を収集する必要があります。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、除籍、原戸籍
取得先: 役所の担当部署 - 被相続人の住民票の除票
取得先: 役所の担当部署
転籍歴がある場合は、被相続人の住所地以外の役所からも書類を取り寄せる必要があります。
相続人の確定および必要書類の収集
被相続人の戸籍などの書類が集まったら、それらの内容を元に相続人を確定させます。この過程で予期しない相続人が発見されることもあるため、慎重に確認することが重要です。相続人の範囲が確定した後は、必要な書類を準備します。相続登記に必要な資料については、後ほど詳しく解説します。
遺産分割協議書の作成
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、その結果を記録するために遺産分割協議書を作成します。この協議書には、相続人全員の署名と実印の捺印が必要です。また、相続登記を行う際には、全相続人の印鑑証明書も添付する必要があります。
登記申請書の作成および申請
相続登記に必要な申請書は、法務局または法務局のホームページから入手できます。遺言書の有無や遺産分割協議の状況に応じて、申請書の様式が異なるため、適切な様式を選ぶように注意が必要です。
相続登記の必要書類
自分で相続登記を行うときは、以下の書類を法務局へ提出します。
自分で用意する書類
- 遺産分割協議書
- 委任状(代理人に手続きを依頼する場合)
役所で交付申請する書類
- 相続人全員の印鑑証明書: 1通200~300円
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本: 1通450円
- 被相続人の住民票の除票: 1通300円
- 相続人全員の戸籍謄本: 1通450円
- 固定資産評価証明書: 1通300~400円
法務局で交付申請する書類
- 相続登記申請書: 無料(法務局窓口または法務局ホームページで入手可能)
- 相続関係説明図: 無料(自分で作成し、法務局で認証を受ける)
- 登記事項証明書: 1通480~600円(取得方法によって異なる)
登記事項証明書は「オンライン申請+窓口交付」を利用すると最も安価で、1通480円で取得できます。また、相続関係説明図を法務局で認証してもらうと、戸籍謄本の原本が返還されるため、他の相続手続き用に再度準備する必要がありません。
相続登記を自分で行う際の必要費用
相続登記を自分で行う場合、以下の費用が必要です。費用は一通(一部)分のもので、自治体によって若干の違いがある場合があります。
- 被相続人の戸籍謄本: 450円~750円
- 被相続人の住民票の除票: 300円
- 法定相続人の戸籍謄本: 450円
- 法定相続人の住民票: 300円
- 法定相続人の印鑑証明書: 300円
- 固定資産評価証明書: 300円
- 収入印紙: 登録免許税の額に応じて異なる
これらの費用に加え、交通費などの実費も考慮する必要があります。
相続登記以外で必要な手続き
家族が亡くなった後には、相続登記以外にも多くの手続きが必要です。以下の手続きは、期限のあるものを優先して対応することが重要ですが、期限がない場合でも放置すると後々問題が生じる可能性があるため、できるだけ早めに進めることをお勧めします。
相続開始から7日以内に行う手続き
- 死亡診断書(または遺体検案書)の取得
死亡診断書は病院で取得し、必要な手続きに使用します。 - 死体埋葬・火葬許可証の取得
死亡届を提出する際に、埋葬または火葬を許可する証明書を取得します。 - 死亡届の提出
死亡診断書とともに、役場に死亡届を提出します。
相続開始から10日~14日以内に行う手続き
- 年金受給停止の手続き・年金受給権者死亡届の提出
年金の受給停止手続きと、年金受給権者の死亡届を提出します。厚生年金の場合は、10日以内に手続きを行う必要があります。 - 国民健康保険証の返却
亡くなった方の国民健康保険証を返却します。 - 介護保険の資格喪失届
介護保険の資格喪失届を提出します。 - 住民票の抹消届、住民票の除票の申請
住民票の抹消届を提出し、住民票の除票を申請します。 - 世帯主の変更届
世帯主の変更届を提出します。
年金の受給停止を忘れると、不正受給とみなされることがあるため、特に注意が必要です。
相続開始から3カ月~4カ月以内に行う手続き
- 相続放棄または限定承認(3カ月以内)
相続放棄または限定承認の手続きを行います。この手続きは相続開始から3カ月以内に行う必要があります。 - 相続の承認または放棄の期間の延長(3カ月以内)
相続放棄や承認の期間を延長する場合も、相続開始から3カ月以内に申請する必要があります。 - 被相続人の準確定申告(4カ月以内)
被相続人の準確定申告を行います。この申告は相続開始から4カ月以内に提出しなければなりません。
相続放棄を決定する際は、相続財産がすべて明らかになっていることが前提となります。
相続開始から10カ月~1年以内に行う手続き
- 相続税の申告および納付(相続開始を知った日の翌日から10カ月以内)
相続税の申告と納付は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に行う必要があります。 - 遺留分侵害額請求(1年以内)
遺留分が侵害されている場合は、相続開始から1年以内に遺留分侵害額の請求を行います。
相続税の申告や納付期限を過ぎると、延滞税などの罰則が課せられるため、期限内に対応することが重要です。
法務局での相続登記手続きの流れ
相続登記の申請は、法務局窓口、郵送、オンラインのいずれかで行えます。初めての方には、窓口での申請が最も安心です。簡単なミスがその場で訂正できるため、初心者におすすめです。以下は窓口での申請手順です。申請には必ず、不動産の管轄法務局へ行ってください。管轄法務局が不明な場合は、法務省のホームページで所在地や連絡先を確認できます。
- 管轄法務局の窓口へ必要書類一式を提出
必要な書類を揃えて、管轄の法務局の窓口に提出します。 - 法務局内の購買所で収入印紙を購入し、貼付
登録免許税分の収入印紙を法務局内の購買所で購入し、申請書に貼付します。 - 窓口で申請し、登記受付番号を控える
書類を提出後、窓口の係官に申請を行い、登記受付番号をメモしておきます。 - 登記完了予定日を確認
窓口の横に掲示された登記完了予定日を確認し、完了日も確認しておきます。 - 相続登記完了後、法務局で完了書類を受け取る
登記が完了したら、再度法務局に出向き、完了書類を受け取ります。登記受付番号が必要です。
不動産を相続すると、登録免許税(税率0.4%)が発生し、収入印紙で納税します。収入印紙は法務局でも購入できるので、現金を用意しておきましょう。
登記申請の窓口は、相続登記以外にも多くの申請があり、順番待ちになることがあります。また、相続登記義務化直前には申請が集中する可能性があるため、できるだけ早めに手続きを済ませることをお勧めします。
相続手続きを自分で行うメリット・デメリット
不動産の所有者が亡くなった場合、その情報は法務局で管理されており、相続人の情報に変更する手続きを「相続登記」と呼びます。この手続きは相続手続きの中でも特に複雑とされています。自分で相続登記を行うことも可能ですが、以下のようなメリットとデメリットがあります。両方を理解し、慎重に判断することをお勧めします。
相続手続きを自分で行うメリット
自分で相続登記を行う最大のメリットは「費用の節約」です。司法書士に依頼すると、通常5万円~10万円程度の費用がかかります。手続きが複雑だったり、登記件数が多かったりする場合は、その費用がさらに高額になることもあります。一方で、自分で手続きを行えば、戸籍の取得費用などの実費のみで済ませることができます。
相続手続きを自分で行うデメリット
自分で相続登記を行う場合、いくつかのデメリットがあります。まず、労力や時間がかかる点です。必要書類を集めるだけでも多くの手間と時間を要し、書類に不備があれば再度やり直しが必要です。さらに、相続登記を行わずに放置すると、権利関係者が増える可能性があり、多くの相続人から同意を得る必要が生じる場合もあります。加えて、相続登記の放置に対する罰則が法改正により導入される動きが進んでいるため、対応の遅れがリスクとなることもあります。
まとめ
相続登記などの手続きは自分でも対応可能ですが、その難易度は実際に取り組んでみないと分からないことがあります。手続きを進める中で、予想外の相続人や財産が見つかることもあり、その場合には新たな対応方法を調べる必要があります。イレギュラーな事態が発生すると、手続きが一時中断される可能性があり、最悪の場合、相続税申告の期限に間に合わないこともあります。自分で相続手続きを進める際は、困ったときに相談できる専門家をあらかじめ見つけておくことをおすすめします。