相続手続きには特定の期限が設定されています。財産の引き継ぎを円滑に進めるためには、相続が発生する前から手続きの流れや財産の分割について理解しておくことが重要です。この文書では、不動産相続の手続きや財産の分割方法、相続税に関する情報を説明します。
不動産相続の手続きの手順
相続が発生すると、10か月以内に相続税の申告が必要です。相続税の申告までの、不動産相続の手続きの流れを確認しましょう。
相続人や相続財産の確認
相続手続きを開始するには、まず相続人を確定する必要があります。相続人を確定させるためには、故人の出生から死亡までの戸籍謄本を入手し、養子や婚外子の有無を確認する必要があります。
不動産相続の対象である自宅以外の不動産が含まれている場合、その所在地と固定資産税評価額は年に1回送付される「固定資産税課税明細書」で確認できます。固定資産税課税明細書が見つからない場合は、市区町村の役所で「固定資産評価証明書」を入手することが必要です。なお、固定資産評価証明書は相続登記の際に必要となります。不動産が複数の市区町村にまたがる場合は、各市区町村ごとに固定資産税課税明細書や固定資産評価証明書を確認し、相続対象の不動産を漏れなく確認する必要があります。
相続放棄を選択する場合(例:負債が多い場合など)、相続が開始されたことを知った日から3カ月以内に手続きを行う必要があります。相続財産の確認は、できるだけ相続が発生する前から行っておくことが望ましいです。
遺産分割協議
遺言が存在しない場合、法定相続分とは異なる分配比率で財産を配分するための相続人間の協議を指すのが遺産分割協議です。財産の分割について合意が形成された場合、全ての相続人が署名し、実印で押印した遺産分割協議書を作成します。
名義変更手続き
遺産分割協議の完了後、相続財産の名義変更手続きが可能となります。不動産の名義変更には、該当する不動産管轄の法務局への相続登記申請が必要です。預貯金、株式、生命保険、自動車などの有価証券は、それを受け継ぐ者が名義変更手続きを行います。
相続税の申告・納付
相続税の申告・納付は、相続が発生してから10カ月以内に行わなければなりません。相続税は、遺産総額に対して課され、各相続人は受け取った割合に応じて負担します。
相続土地の分割方法
土地の分割が複雑な場合、どのように分割すれば良いのでしょうか。主な方法について説明いたします。
代償分割
代償分割は、特定の相続人が不動産を相続し、残りの相続人に相続分に相当する金額を支払う方法です。この手法は、相続人が居住していた不動産を相続する場合などに適しています。例えば、3,000万円相当の自宅の土地と建物を兄弟2人で相続する場合、兄が土地と建物を単独で相続した場合、兄は弟に対して1,500万円の現金を支払います。この結果、両者の相続利益はそれぞれ1,500万円に調整されます。ただし、不動産を相続する者は代償金を用意する必要があります。
不動産を共有した場合の留意点
遺産分割協議がまとまらず、相続税の申告期限が迫る場合、複数の相続人で不動産を共有することが生じる可能性があります。ただし、共有財産を処分するには他の共有名義人全員の同意が必要です。また、共有中に共有名義人が亡くなり相続が発生した場合、持ち分の整理が複雑になります。やむを得ない状況でないかぎり、他の手段での分割を検討することが望ましいです。
相続登記の方法
相続登記の手続き方法について、以下で詳しく説明します。
相続登記に必要な書類
不動産の相続登記には、以下の主要な書類が必要です。
- 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票(登記簿上の住所と死亡時の住所のつながりを示すもの)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を相続する者の住民票
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
相続登記にかかる費用
相続登記には、主に以下のような費用がかかります(※法定相続人が取得する場合)。
- 登録免許税:固定資産評価額合計×0.4%
- 司法書士への報酬:相場としては5~15万円程度
土地の相続税の計算と小規模宅地等の特例
土地の相続税計算と小規模宅地等の特例について、最後に説明いたします。
相続税の計算手順
- 課税遺産総額の算出:遺産総額から基礎控除を差し引いた額
- 課税遺産総額を法定相続分で按分
- 各法定相続分ごとに税率をかけ、相続人ごとの税額を計算
- 各相続人の税額を合算
- 合算された税額を、実際に相続した財産の割合に応じて負担
基礎控除について
相続税は、遺産総額全額に対して課税されるわけではありません。基礎控除と呼ばれる非課税枠を差し引いた課税遺産総額に対して課税されます。基礎控除の計算式は次の通りです。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の場合、基礎控除額は4,800万円(3,000万円 + (600万円 × 3))となります。この場合、遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税は課税されません。
不動産の評価について
相続税の計算に用いられる財産の基準金額が、相続税評価額です。評価額は財産の種類によって異なり、一般的には不動産の相続税評価額が取引価格よりも低く設定されます。
- 建物の評価額
建物の相続税評価額は、通常固定資産税評価額を基準にします。一般的に建物の固定資産税評価額は、建築費の50%から70%程度です。 - 土地の評価額
土地の相続税評価額は、相続税路線価を基準にします。路線価は土地が接する道路ごとに設定され、地価公示価格の約80%となります。土地の相続税評価額は、路線価に土地の面積を掛けて算出されます。路線価が設定されていない地域の土地の評価方法は倍率方式で、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて相続税評価額を算出します。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、一定の条件を満たす土地の相続税評価額を50%〜80%減額できる仕組みです。相続税の節税に寄与する重要な特例であり、該当する方はぜひ活用してください。
特例が適用される土地の種類
小規模宅地等の特例が利用できる土地は主に以下のカテゴリに分類されます。
特定居住用宅地→亡くなった人が住んでいた自宅の敷地
特定事業用宅地→亡くなった人が個人で経営していた店舗や事務所の敷地
貸付事業用宅地→亡くなった人が貸していたアパートや駐車場の敷地
特定同族会社事業用宅地→亡くなった人が経営していた同族会社の事業所がある土地
土地の種類ごとの上限面積と減額の割合
各土地ごとに特例が適用される上限面積と減額割合は以下の通りです。
- 特定居住用宅地|上限面積 330㎡、減額割合 80%
- 特定事業用宅地|上限面積 400㎡、減額割合 80%
- 特定同族会社事業用宅地|上限面積 400㎡、減額割合 80%
- 貸付事業用宅地|上限面積 200㎡、減額割合 50%
適用されるための要件
小規模宅地等の特例を利用するには、特定の要件を満たす必要があります。例えば、特定居住用宅地の場合、適用要件の一部は以下の通りです。
- 取得者が配偶者の場合、特別な要件はありません。
- 取得者が同居の親族の場合、相続税の申告期限まで家屋に居住し、その宅地を所有している必要があります。
- 取得者が同居していない親族の場合、複数の要件を満たす必要があります。
これらの条件や詳細な要件については、国税庁のホームページで確認できます。
小規模宅地の特例は併用可能
同族会社を経営していた場合、同族会社事業用宅地の特例と特定居住用宅地の特例を併用できます。これにより、事業所がある土地と自宅の土地において、それぞれ80%の減額が可能です。
ただし、特例の併用には土地の種類によって制限があるため、詳細な情報が必要です。小規模宅地の特例の利用を検討する場合は、専門家に相談することをおすすめします。
土地の相続は生前からの準備で、スムーズに引き継げるように
土地や建物は分割が難しい財産です。そのため、複数の相続人がいる場合、遺産分割協議がまとまらない可能性があります。できれば、相続が発生する前から準備をしておくと良いでしょう。小規模宅地等の特例は、土地を相続する人にとって理解しておきたい制度ですので、あらかじめ適用要件を確認しておきましょう。
遺産分割や不動産の相続手続きで困ったことがあれば、信頼できる地元の銀行に相談することをおすすめします。