相続においては、些細なきっかけから感情的な軋轢が生じ、時には深刻な親子間の争いに発展することがあります。特に、家族の中での相続における感情的な対立は、容易に複雑で厳しいものとなりがちです。親子関係がからむだけに、コミュニケーションが難しく、感情的な壁ができやすい状況もあります。
まだ感情的な対立がない状態であっても、
- どのように話を進めるべきかが不透明である
- 親子関係ゆえ、伝えにくい事柄も存在する
といった悩みを抱える方も多いことでしょう。
さらに、再婚が絡む場合、父親が亡くなり後妻が実家となる不動産で生活するケースもあります。このような事例では、子供と後妻の間で相続に関する対立が発生することも珍しくありません。
本記事では、「親子間の相続トラブル」に焦点を当て、詳細に解説いたします。
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絶縁状態にある親子の相続について
親子関係が「勘当」や「絶縁」の状態にあっても、法的には親子関係が解消されることはありません。言い換えれば、子供は相続権を保持しています。
「相続欠格」や「相続廃除」の規定に該当すれば、相続権が喪失される可能性もありますが、これらの事態に直面することは非常にまれです。絶縁状態であっても法的には相続権が存在するため、遺産分割協議においては、絶縁状態にある子供も参加する必要があります。ただし、このようなケースでは、相続の過程でしばしば問題が生じ、感情的な複雑さが相続問題に持ち込まれ、円滑な話し合いが難しくなることが予想されます。
遺言書を作成して第三者に遺贈する
「縁を切る」方法は法的に存在しませんが、遺産分割において揉め事を避ける方法はあります。例えば、特定の相続人に対して「遺産を相続させない」方法が考えられます。
特定の相続人を除外し、他の相続人や第三者に遺産を相続させるための遺言書を作成します。これにより、他の相続人に財産が譲渡され、特定の相続人には何も相続されないようになります。
ただし、この手法を利用する際に留意すべき点は、対象となる子供が有する「遺留分」(最低限の相続権利)です。この方法を採用する場合、特定の相続人が遺留分を受け取れなくなり、それが遺留分侵害となり得ます。その結果、「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」を行う可能性があります。この状況では、遺留分に相当する金額を特定の相続人に支払う必要が生じます。
他の推定相続人や第三者に生前贈与する
遺言書以外の方法としては、どのような手続きが考えられるでしょうか。
特定の相続人を除いた推定相続人や第三者に、財産を生前に贈与することで、望まない相続人に財産が移転するのを防ぐことができます。
ただし、この方法も遺言書を作成する場合と同様に、相続人には最低限の相続権である「遺留分」が存在します。そのため、この遺留分を侵害するような生前贈与に対しては、「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」が行われる可能性が高まります。
また、生前贈与を行う際には、贈与税についても考慮する必要があります。生前贈与には贈与税がかかりますし、場合によっては高額な贈与税が課されることもありますので、慎重な計画が必要です。
遺留分の放棄
「遺留分の放棄」とは、遺留分の権利者が自らその権利を手放す行為です。
ただし、被相続人が生存している際に遺留分を放棄するには、「遺留分放棄の許可」を家庭裁判所から得る必要があります。この手続きがあるものの、実際には単に遺留分を放棄するだけでは許可されません。遺留分を放棄するためには、事前にその権利を手放す者に対して生前贈与を行う必要があります。また、遺留分の放棄は通常、遺言書と結びついています。例外的に遺言書が存在せず、遺留分の放棄だけが行われる場合もありますが、通常は遺言書と一緒に遺留分の放棄が行われますので、遺言書の作成を忘れずに行ってください。
廃除とは
「廃除」とは、遺留分を有する推定相続人(配偶者、子、直系卑属)が非行や被相続人に対する虐待・侮辱がある場合に、被相続人の意思に基づいてその相続人の相続資格を剥奪する制度を指します。
廃除には生前の廃除と遺言による廃除の二つのタイプがあり、どちらも家庭裁判所に申し立てを行い、廃除の決定を受ける必要があります。
一見、相続人の資格を奪う手続きが可能なように思えますが、実際には相続資格を剥奪することは非常に難しく、家庭裁判所が廃除の決定を下すことはほとんどありません。例えば、長年の縁を切っていて連絡をとっていないといった事情だけでは、廃除の決定を得ることは難しいと言えます。相続資格を奪うには、極めて深刻な虐待や侮辱などの実例を明示する必要があります。
親子間の不動産トラブルについて
土地や建物などの不動産は、現金や預貯金のように「容易に分割できない資産」です。また、このような資産は評価が難しいため、相続においてはしばしばトラブルの原因となります。
具体的な例として、被相続人が父親であり、相続人である母親(妻)が自宅を相続して居住したいと考えている一方で、子供たちは自宅を売却し、その売却代金を法定相続分に従って分けたいと望んでいるケースが挙げられます。
母親(妻)にとっては、これまでの生活の拠点である自宅を相続から失うことは重大な不利益です。このような事態を回避するため、改正民法では「配偶者居住権」という制度が導入されました。
配偶者居住権とは
相続法改正により認められた配偶者居住権には、「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」の二つがあります。
「配偶者短期居住権」は、被相続人の所有していた建物に無償で居住していた配偶者に対して、遺産分割協議により建物の取得者が決まるまで、または相続開始から6か月経過する日のいずれか遅い日まで、引き続きその建物に無償で住む権利を与えるものです。
「配偶者居住権」は、被相続人が所有していた建物において、被相続人が亡くなった際に配偶者が居住していた場合に、遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判により、配偶者が配偶者居住権を取得した場合に、配偶者に対して終身(亡くなるまで)または一定期間、建物の使用を認めるものです。建物が配偶者以外の相続人によって取得された場合には、上記の条件を満たす必要があります。
これまでは、配偶者が自宅に住み続けるためには、遺言で自宅の取得者を指定するか、他の相続人と遺産分割協議を行い自宅の所有権を取得する必要がありました。また、自宅の所有権を取得せずに居住する場合には、他の相続人の承諾を得てそのまま居住するしかありませんでした。
しかしこの方法では、自宅の権利を取得するために他の相続人との取り分を減少させることになり、遺産総額が少ない場合は代償金を支払う必要もありました。このような問題に対応するため、新たに配偶者居住権の制度が導入されました。
なお、配偶者居住権を取得する際には、遺産分割においてその評価額が考慮されます。
登記が必要なのは、配偶者居住権
配偶者居住権を設定する場合、その旨の登記が不可欠です。登記を怠ると、他の相続人に対抗できなくなります。配偶者居住権の設定登記には、権利者である配偶者と建物の所有者である義務者が協力して申請する必要があります。
具体例として、被相続人が夫で相続人が妻と子の2人で、遺産総額が5,000万円(内訳:自宅3,000万円、預貯金2,000万円)とします。法定相続分に従い2,500万円ずつ相続するとし、ここで配偶者居住権の評価額を1,000万円とします。
配偶者居住権がない場合、妻の相続分は2分の1で2,500万円です。妻が自宅を相続すると2,500万円を超え、公平な相続が難しい場合、子に代償金として500万円支払います。この結果、妻は生活資金を確保するために手持ち財産から500万円支払わなければなりません。
一方、配偶者居住権がある場合、妻は「配偶者居住権」を相続し、自宅の所有権は子に渡せます。配偶者居住権の評価額が1,000万円であれば、妻はこの権利に加えて預貯金1,500万円を相続できます。配偶者居住権があることで、妻は住まいと生活資金の両方を確保できることになります。
親子関係のトラブル相談は弁護士に
不動産の相続においては、相続人間でのトラブルが複数の要素から発生することがあり、その結果、遺産分割が円滑に進まない場合も考えられます。
公平な遺産分割が複雑なケースでは、弁護士に相談することが検討されます。弁護士に早い段階で相談することで、法的な根拠に基づいた解決策が提示され、相続人同士の人間関係を損なわずに問題を解決する手助けとなるでしょう。
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弁護士への相続に関するご相談を検討されている方へ
早期に弁護士に相談することで、遺産分割に関連する問題について、可能な限りご希望に添った解決策を見つける可能性が高まります。
さらに、遺産分割協議の段階で弁護士に交渉を依頼することで、比較的短期間で問題の解決が見込まれ、かつ貴重な時間が失われずに済むだけでなく、ご家族・ご親族間の関係性も悪化させずに済むことがあります。