破産者が遺産を相続しようとする場合には、いくつかの注意点が存在します。特定の条件によっては、自己破産をした本人が遺産を受け取れないこともあります。借金問題を抱えている人が破産を検討し、その後に遺産相続を考える際の専門的なポイントについて、以下で解説いたします。
自己破産した個人が遺産を相続できる条件について
自己破産を経験した個人が相続人となった場合、その遺産を受け取ることができるのでしょうか。
この問題は実は「遺産相続の時期」によって大きく影響を受けます。相続開始が「破産手続き開始決定前」の場合、遺産相続は認められません。一方で、「破産手続き開始決定後」ならば、基本的には本人が自身で遺産分割協議を進め、遺産を受け取ることが可能です。
たとえば、かつて破産した経験があると、遺産相続において「できないのではないか」という心配が生じることもあります。しかし、破産者でも遺産相続は可能です。破産手続きの際に下る「破産手続き開始決定」により、その後に得た財産は基本的に「自由財産」となり、破産者本人が所有することとなります。
したがって、破産手続き開始決定が下りれば、その後の遺産相続においても、原則として遺産は配当対象外となります。この状況下で、破産者本人は遺産分割協議に参加し、自身の希望に従って遺産相続の手続きを進めることができます。
このような場合、かつての破産経験があるからといって、遺産が没収される心配はないため、安心して進めることができます。
破産手続き開始決定前の遺産相続について
懸念されるのは、「破産手続き開始決定前」に遺産相続が発生した場合です。
この場合、破産者が手続きを始める時点で存在する財産は、破産手続きが進むにつれて債権者によって配当されてしまいます。ほとんどの場合、これらの財産は、破産者が手元に残すことが難しいほどの金額であると考えられます。
遺産分割協議が既に終了している場合
破産手続きが始まる前に既に遺産分割協議が終了している場合、破産者が手元に残している財産が相続財産として債権者によって配当対象になります。
例えば、破産者が以前に300万円の預金を相続したと仮定します。100万円を使用し、手元に残っているのが200万円であれば、この200万円が債権者への配当対象となります。
手元に財産が残っていない場合、基本的には配当の対象外となります。ただし、かつて相続した金額が膨大である場合、裁判所が「その使途は何か」といった報告を求める可能性が高まります。
相続が発生した時期が破産申立時期に近く、高額な相続財産の去り先が明確でない場合、裁判所から「財産を隠しているのではないか」と疑われる可能性も考慮するべきです。
遺産分割協議がまだ行われていない場合
破産手続き開始決定前に遺産相続が発生し、手続き開始決定時にまだ遺産分割協議が終わっていない場合、破産者本人は遺産分割協議を進めることができません。代わりに、裁判所が指名した「破産管財人」が遺産分割協議を進行します。
破産手続きにおける遺産分割協議の進め方については、次項で詳しく解説していきます。
破産者の遺産分割協議の進行方法はどのようになるのでしょうか?
すでに述べた通り、破産前に遺産分割協議が行われないと、遺産は没収の対象となります。その手続きの流れを確認してみましょう。
法定相続分が破産者の「財産」になる
自己破産をした場合、未だ遺産分割が完了していない状態では、「法定相続分」が破産者の財産と見なされます。
例えば、遺産が3000万円で、破産者を含むきょうだい3人が相続人である場合を考えましょう。破産者の法定相続分は3分の1なので、破産者の相続分は1000万円となります。この1000万円分の権利が破産者の財産と見做され、配当の対象となります。
破産管財人が遺産分割協議に参加する
破産手続き開始決定が裁判所で下されると、破産者は財産管理権を失い、「破産管財人」が財産を管理することになります。この段階で、遺産分割協議も破産管財人が主導して進められます。
具体的には、破産管財人が裁判所の許可を得て、他の相続人と協議を行い、遺産の分割方法を決定します。
また、破産管財人は相続財産を換価し、その価値に基づいて債権者へ配当を行います。つまり、相続人に破産者が含まれている場合、相続された遺産も債権者への配当として失われる可能性があります。
管財事件になって負担が重くなる
相続発生後、遺産分割協議前に破産すると、「破産管財人」が必要となり、「管財事件」の可能性が高まります。管財事件は、一定以上の財産を有する者が破産する際の煩雑な手続きを指します。
破産管財人には高額な予納金が発生し、手続きも長期化します。裁判所では何度も債権者集会が開催され、その都度裁判所へ足を運ばねばなりません。
遺産がない場合は手続き費用も安く、手続きも短期間で終了する「同時廃止」が適用されます。しかし、遺産があることで管財事件になると、余計な負担がかかる可能性があります。
破産による遺産相続への影響を避けるなら「相続放棄」が有効
破産手続き開始決定前に遺産分割協議がまだ済んでいない場合、自己破産を申し立てることで管財事件に発展し、遺産が失われる可能性があります。こうした不利益を回避するために有効な手段が「相続放棄」です。
相続放棄は、家庭裁判所に申し立てを行い、すべての遺産を受け取らないことを決定する手続きです。相続放棄すれば、その人は相続人として認められなかったことになります。遺産を一切相続しないため、破産管財人や債権者による法定相続分の取得も回避できます。同時に、他の相続人に迷惑をかけることなく、スムーズに手続きを進めることが可能です。
さらに、相続放棄すれば、遺産以外に財産がない場合、破産手続きも簡易な「同時廃止」にすることができるでしょう。これにより余計な費用を支払わずにすみ、破産手続きも迅速に終了させることができます。
相続放棄の期限が切れた場合は?
相続放棄には期限がありますので、慎重に行動する必要があります。通常、相続開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。この期限を過ぎると、相続放棄の手続きが受け付けられなくなります。
もし自己破産を検討している際に遺産相続が発生した場合は、できるだけ早く相続放棄の手続きを進めるよう心掛けましょう。期限を守ることが、後々のトラブルを避けるために重要です。
破産前に遺産分割協議をする場合の注意点
相続放棄の期限が切れてしまった場合、破産を検討している際には、破産前に自ら遺産分割協議に参加し、「遺産を一切相続しない」内容での合意を求めましょう。
遺産分割協議で全く遺産を相続しないことに同意すれば、本人の遺産取得分は発生しません。これにより、財産が存在しないため、破産管財人による換価のリスクも基本的に軽減されます。
ただし、破産直前に遺産分割協議を行い、それが「債権者への配当を不当に免れるための手段」と見なされると、破産管財人によって否認される可能性があります。破産前の遺産分割協議や名義変更を検討する場合は、自己判断せずに弁護士に相談することが安心です。
まとめ:破産者の遺産相続に関するポイントを理解する
これまで述べてきた通り、破産者が遺産相続に取り組む際には、「遺産相続の時期」や遺産分割協議のタイミングなど、様々な注意点が存在します。状況によっては適切な対応が求められますので、迷った際には相続問題に精通した弁護士に相談してみることがお勧めです。