信託銀行などは、遺言書の作成をサポートする「遺言信託」のサービスを提供している。
主要な信託銀行がこのサービスを運用しているため、信頼感がある。
信託銀行の遺言信託サービスを利用する際に、押さえておくべき要点やトラブルの事例について説明する。
「遺言信託」には2種類ある
まず「遺言信託」には、
①信託法に基づく遺言信託
②信託銀行などが提供する遺言書サービス
の2つのタイプが存在している。順番に見ていこう。
遺言による信託 | 信託法に基づく信託の設定方法
要するに、ちゃんと財産を管理してくれる人を法的に決めておきましょう。ということである。
生前の相続プランニングや認知症対策に使用されることが多く、信託を設定する方法は、「信託契約」「遺言」「信託宣言(自己信託)」の3つが存在している。
信託契約
委託者と受託者が契約を結び、信託を設定します。
直接契約を結ぶ方法だ。
遺言
委託者の遺言に基づいて信託を設定します。
相続する人が、「この人に任せる!」と遺言書に書いておく。
信託宣言(自己信託)
委託者が自身が受託者となることを宣言し、信託を設定します。 この中で、遺言によって信託を設定する場合、これを「遺言信託」と呼ぶことがあります。
例えば、認知症で法的な依頼ができない場合は、自分で「財産を管理しまっせ」と宣言する。
信託銀行などの遺言書サービス
信託銀行などは、遺言書の作成、保管、および執行をサポートするサービスを提供している。このようなサービスは通常、「遺言信託」と呼ばれている。
この記事では、信託銀行が提供する「遺言信託」に焦点を当て、その概要やトラブル事例などについて説明していく。
信託銀行などの「遺言信託」の主なサービス内容
信託銀行などが提供する「遺言信託」の主要なサービス内容は、次の3つに分けられる。
①遺言書作成の相談
信託銀行などの「遺言信託」を利用すると、将来の遺言書の内容について、信託銀行の担当者と相談可能。
家族や個人の状況に合わせて、具体的なアドバイスを受けることができる。ただし、実際の遺言書の作成は本人自身が公証役場で手続きを行う必要があり、信託銀行は代わりに遺言書を作成するわけではないので注意が必要。
②遺言書の保管
遺言書の原本などは、本人が亡くなるまで信託銀行で安全に保管されるサービスがある。
遺言書は改ざん防止のため、一度開封すると法的効果がなくなる。
したがって、遺言を作成したあとは、本人は信託銀行などに遺言信託サービスを申し込む。遺言信託契約が締結された後、本人は遺言書の原本や相続財産に関する文書、戸籍謄本、印鑑証明書などを信託銀行に預ける。
本人が亡くなった際に、遺言書の存在を通知する人(死亡通知人)を指定することも可能。実際に本人が亡くなった場合、信託銀行は死亡通知人に通知を行うことができる。
③遺言執行
遺言信託サービスを利用する場合、一般的には公正証書遺言の中で信託銀行などを遺言執行者として指定することが多い。
簡単に言うと、遺言に書かれた通りに相続を進めることを遺言執行と呼ぶ。進める人を遺言執行者と言う。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な業務を担当します。本人の死後、信託銀行などの遺言執行者は、遺言書の内容に従って名義変更などの手続きを行う。
遺言の内容や遺言執行の進捗については、信託銀行などから相続人に対して、定期的に報告が行われることが一般的だ。
信託銀行などの「遺言信託」に関する手数料の種類、金額、および含まれないサービス
信託銀行などの遺言信託サービスを利用する際には、手数料とサービス内容について詳細に確認することが大切。
特に、手数料には複数の種類があり、一部のサービスが手数料に含まれないことに留意する必要がある。
銀行に頼むと遺言信託の費用はいくらくらい?
実際に信託銀行などが設定をしている手数料は以下のようなイメージ。
信託銀行などの遺言信託サービスを利用する場合、通常は
・基本手数料
・遺言書保管料
・遺言執行報酬
が発生。また、遺言書を変更する際には「遺言書変更手数料」がかかることがある。
遺言の執行まで行うと最低150万円くらいはかかる想定。
遺言信託の手数料に含まれないサービス
遺言信託の手数料には、専門家への依頼費用は含まれていない。
たとえば、弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士などの専門家に協力を仰ぐ必要が生じた場合、信託銀行などに支払う手数料とは別に、専門家への費用が発生することに留意が必要。
また、公的な書類取得費用なども、利用者自身が実費で負担する。
それでもなぜ信託銀行に頼む人がいるのか?
一見費用がたかく、手数料も多そうだと思うが、それでもなお、頼んでも良い人はどのような人か?
それは次のような人である。
まとまった資産があり、一箇所ですべての手続きを行いたい
遺言信託を使うには手数料がかかるため、残される財産が一定以上であることが条件になる。
まとまった資産がある人は、お金や不動産を多く所持しているため、相続の手続きが複雑になることが多い。こういう場合は遺言信託を使うことで、信託銀行や財産の分割をおこなってくれるため、家族の手間をかなり軽減してくれるのだ。
遺言書を作るときや相続の手続きをするとき、普通はそれぞれ異なる場所で行う必要がある。
遺言信託を使うと、全部を1か所でスムーズに進めることができる。これは、一つの窓口ですべてが片付けられる、と考えればいい。
信託銀行等の「遺言信託」に関連した一般的なトラブル事例
信託銀行等の遺言信託サービスに関連して、利用者が以下のような不満を抱くケースがある。遺言信託サービスを利用するかどうかを決定する際に、これらのデメリットやトラブル事例も考慮して判断しよう。
費用が高額になってしまった
遺言信託サービスの手数料は最低でも数十万円以上から始まり、遺言執行を依頼する場合には150万円以上から数百万円に及ぶことが想定される。
手数料に専門家への依頼費用は含まれないため、実際の費用は信託銀行の手数料と専門家費用を合わせると、高額になる場合も。
加えて相続トラブルが発生した場合や相続税の申告や登記が必要な場合には、手数料と専門家費用を合算すると、高額な費用がかかってしまい、最終的には半分ほど資産が減ってしまったというケースもあるので注意が必要。
認知や相続廃除について対応してもらえなかった
信託銀行等が遺言執行者としてできるのは、財産に関する遺言の執行に限られている。当然ながら、遺言書には認知や相続廃除の意思表示も含めることができる。
ただし、認知や相続廃除などの身分行為については、信託銀行等は対応できない。その資格を所有しているのは弁護士であり、別途費用が必要になってきてしまう。
相続トラブルに一切対応してもらえなかった
遺言信託サービスを提供する信託銀行等は、法律上、法律事件についての法的代理権を持っていない。相続トラブルの解決に関しては、弁護士にしか権利がない。
そのため、相続トラブルが発生した場合、信託銀行等は一切対応できない。信託銀行に高額な手数料を支払ったにもかかわらず、トラブルが発生した際には、別途弁護士に依頼する必要がある。この点に留意して、遺言信託サービスを利用するかどうかを検討することが重要。
弁護士にも依頼が可能
筆者がもし信託を利用するとなった場合は、銀行ではなく弁護士に依頼する。
初回で無料相談をおこなっているし、相続トラブルに精通しているため、あらかじめトラブル対策のできる方法を提案してもらえるからである。
これは相続の紛争案件に特化している弁護士ならではの利点である。
遺言の保管については公共機関に依頼することになるケースもあるが、遺言の執行についても対応している事務所は多い。遺産が多くあり、相続人全員が納得する形で相続を終わらせたいと思っている方はぜひ検討してみると良い。
弁護士費用について詳しく解説したので読んでみてくれ
まとめ
信託銀行等の遺言信託サービスは、遺言書の作成、保管、執行をサポートする便益的な手段である。しかし、手数料と専門家費用を合わせた総費用が高額になる可能性や、相続トラブルへの対応が不可能であることに留意が必要。
弁護士は相続トラブルにも対応でき、税理士や司法書士など他の専門家と連携し、包括的なサポートを提供することがあります。遺言や相続に関するご依頼は、弁護士との相談がおすすめできる。