遺産相続トラブルが発生しやすいのは誰なのでしょうか。
親族の中で配偶者の次に遺産を貰う可能性が高いのが「子」。
故人の子どもが複数人いることによって、遺産分割の割合について主張が異なってしまうので、子ども同士で争うことが多いのです。
この記事では、そんな兄弟間のトラブルの事例を紹介しつつ、
・そもそも争いが起きた場合、どちらの主張が法的に正しいのか
・どのように解決していくべきか
等をお伝えしていきます。
兄や姉の勝手な言い分は通用しない。知っておくべき遺留分とは?
(1)遺言がない場合には相続人全員の協議が必要
兄や姉が「すべての遺産を相続する」と述べていたとしても、遺産分割協議において、弟がその内容に同意しない限り、兄は遺産を独占することはできません。
遺産分割協議書は、全ての相続人が参加し、実印で署名押印する必要があるからです。
したがって、全員の合意が得られるまで、協議は続くことになります。
(2)遺留分とは遺産を最低限もらえる権利のこと
遺留分とは?
法定相続人に保障される、最低限の遺産を取得できる割合のこと。遺言や贈与によって相続財産が減ってしまったとしきに、主張できる権利でもある。
例え兄が「遺言があるからお前には遺産をやらない」と言ったとしても、弟は遺留分の権利を主張できるということになります。
(3)遺留分が認められる人
遺留分は、法定相続人のうち兄弟姉妹を除く人に適用される。具体的には、配偶者、子供、および直系尊属(被相続人の親や祖父母など)がこれに該当します。被相続人の孫やひ孫などの直系卑属については、代襲相続の場合にのみ遺留分が認められる。
遺留分が認められる人
◆配偶者
原則、法定相続人である配偶者は遺留分が認められており、その割合は相続財産の1/4となる。
◆子どもやその孫・ひ孫
子どもやその孫・ひ孫の遺留分については、相続財産の1/4となり、その1/4を兄弟で山分けした金額が遺留分となる。
◆親
親の遺留分については、相続財産の1/6となり、両親が両方生きていれば1/12ずつ、片方しか生きていない場合は1/6の遺留分が認められる。
上の表を参考にしてください。
(4)遺留分が認められない人
すべての相続人に遺留分が認められると誤解している人もいるが、遺留分が発生しない場合もあるので、その例を見ていきましょう。
遺留分が認められない人
◆被相続人の「兄弟姉妹」および「甥・姪」
被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められない。また、その兄弟姉妹の子どもである甥や姪が代襲相続する場合でも、遺留分は認められない。
◆「相続放棄者」および「その子ども・孫」
相続放棄すると遺留分も失われる。また、その子どもや孫なども代襲相続せず、遺留分を受け取る資格がない。
◆「相続欠格者」および「廃除された相続人」
被相続人を殺害したり遺言書を隠匿したりして相続欠格となった人や、相続人から廃除された者にも遺留分は認められない。
一般的な相続で、子どもたちの兄弟で相続が行われる場合、兄弟姉妹の全員に遺留分が認められます。
兄が遺言により遺産の全てを相続しようとしていたとしても、弟は遺留分の権利を主張し、相続をすることができるのです。
兄弟の遺産相続トラブル15選
兄弟の遺産相続トラブル事例には、次のようなものがある。
事例①勝手に遺産分割の協議書を作成して、押印させようとしてきた
事例②兄弟から相続放棄を求められた
事例③兄弟が遺産を勝手に使い込んでいた
事例④遺言書が有効か無効かで意見が割れた
事例⑤遺言に「相続させない」と書かれていた
事例⑥父の生前に援助をうけていた兄弟がいた(特別受益)
事例⑦兄弟に「介護については、分割割合には関係ない」と言われた
事例⑧義母への介護に尽くしてきたのに、夫の兄弟に反対された
事例⑨誰がどの財産を取得するかで意見が割れてしまった
事例⑩不動産の分割方法でトラブルになった
事例⑪不動産の評価額について意見が割れた
事例⑫不動産を取得することになったが他の相続人が登記に協力してくれない
事例⑬家業のレストランを売って遺留分を請求された
事例⑭父親の前婚に生まれた半血の兄弟から遺産を請求された
事例⑮兄弟が認知症の父親をだまして贈与をうけていた
以下、それぞれの予防策、解決策について説明していきますね。
【トラブル事例①】勝手に遺産分割の協議書を作成して、押印させようとしてきた
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:長男・長女・次男・次女(村上さん53歳)
父親が他界し、相続が発生した。あるとき長男と次男から、遺産分割協議書が送られてきた。開けてみると、その内容は私たち姉妹の取り分が圧倒的に少なく納得がいかない。そもそも遺産分割できちんと話し合っていないのに、勝手に進めるなんてどうかしている。
知っておきたい知識
遺産分割は相続人全員の合意がないと、法的に処理できないため、今回の場合は押印さえしなければ、納得のいかないまま遺産が処理されることはない。
【トラブル事例②】兄弟から相続放棄を求められた
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:長男・長女(上里さん35歳)
父親が他界し、相続が発生した。葬儀の終わった翌週長男から、「父親の遺産はほぼないから、俺が処理するよ。だから、お前は相続放棄しておいて」と言われた。いくらくらい遺産があるのかだけ教えて。といっても、長男は「数万円だよ」としか言わない。相続放棄にはお金もかかるのでその場では、了解しなかった。すると、その翌週「はやくしろ」と催促の電話がくるようになった。「お前のせいで相続の手続きが進まない。いい加減にしろ」とヒートアップしてきた。どうしたら良いのだろう。
アドバイス
長男は他の兄弟に対して相続権を放棄するように要求してくることがあります。
相続人である以上、相続権を行使する権利があるため、相続放棄をするかどうかはその人の自由。ただし、一度相続放棄を行うと、後から取り消すことはできないので注意が必要です。
相続放棄を求められた場合、すぐに応じることは避け、慎重に検討してほしいと思います。
自分が納得できないのなら、応じる必要は全くないです。
あなたが法定相続人である場合、法律で遺産を貰える権利があるからです。
もしも、しつこく迫られ、脅迫じみたことをされた場合には、まだ相談をしていなかったとしても「今弁護士に相談しているから」とくぎを刺しておきましょう。
それでもダメな場合は、弁護士に頼ってみてください。以前関わりのあった法律事務所、すぐに間に入ってくれて、相手側に連絡をしてくれたという事例もありました。
【トラブル事例③】兄弟が遺産を勝手に使い込んでいた
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:長女・長男・次男(野口さん35歳)
父親の死後、長男が父の相続財産である預金口座から多額の現金を抜き取っていたり、株式を売却し現金を得ていたことがわかりました。その額なんと計約1800万円。さすがにやりすぎだろと思ったのですが、本人は「そのことは知らない。」の一点張で、さすがに腹が立ちます。こちらも黙ってはいられません。どうしたら良いでしょうか。
アドバイス
まずは、父親の預貯金口座や株式の取引明細を確認し、出金額・売却額の調査をすることが必要です。
その金額を相続財産に持ち戻し、再計算することで本来の相続分に不足している金額を長男に請求できるからです。
調停や訴訟を起こすには、相手側が不当に利益を得ている根拠が必要になる
使い込みの文を請求するにも、さまざまな手続きがあるため、弁護士に依頼することを本当におすすめです。
【トラブル事例④】遺言書が有効か無効かで意見が割れた
◆相続人の関係図
被相続人:長男
相続人:次男・三男・四男(原さん55歳)
裕福な土地所有者である原田家の長男は突然の病で亡くなりました。原さんには子供がおらず、両親も他界していたので、3人の弟の間で相続することになりました。
遺産の相続については彼の遺言書が鍵となりました。
遺言書には「全財産を次男に譲る」という内容が記されていました。そのこともあり、遺言書が有効か無効かで激しく対立しました。彼らは兄の死が急であることや、遺言書が公正なものでない可能性があることを主張しました。
アドバイス
相続において、法的な条件を満たした遺言書には、原則として従う必要がある。
今回、故人の兄弟が相続人となっているため、遺産を最低限もらえる「遺留分」は存在しない。
したがって、他の兄弟が遺産を受け取るためには、遺言書が不正なものであることを証明しなくてはならない。
遺言書が無効になるケースは以下の通りである。
- 日付がない、または日付が特定できない形式で書かれている
- 遺言者の署名・押印がない
- 内容が不明確
- 訂正の仕方を間違えている
- 共同で書かれている
- 認知症などで、遺言能力がなかった
- 誰かに書かされた可能性がある
公正証書遺言だった場合、無効にするのは通常難しいため、自筆証書遺言の場合には、以上の不備がないかチェックしてみよう。もし、自分で判断するのが難しい場合は、弁護士の無料相談を活用するのも手だ。
【トラブル事例⑤】遺言に「相続させない」と書かれていた
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:長男・次男・長女(橋本さん48歳)
橋本家は代々続く由緒ある日本の家系で、長男・次男・長女の三人の子供たちが親の期待を背負って育てられました。長女の名前は美晴で、彼女は優れた教育を受け、将来を約束された存在でした。一方、長男の光一と次男の雅彦も、それぞれの分野で成功を収め、家族全体が誇りに思う存在でした。
父の正夫がなくなり、相続についての話し合いになったところ、遺言書が見つかりました。
衝撃だったのが、「私の財産は、長女美晴には相続させません」という旨の記載があったことです。
長男と次男は生前、両親への世話を焼いたりしていたのですが、自分だけ相続から除外されたことに納得がいきません。どうしたら良いでしょうか。
アドバイス
最近では、こういう「兄弟の誰かには相続させない」という遺言書によって相続トラブルになる家族も多い。
しかし、長女は第一順位の相続人であるため、最低限相続金額を受け取ることのできる「遺留分」の権利を持っている。
したがって、遺留分侵害請求を行うことで、遺産を貰える可能性がある。
一般的に、弁護士に依頼することにはなるが、遺留分が300万円を超えてくれば、弁護士費用や裁判の費用を差し引いても200万円前後は手元に残るだろう。
【トラブル事例⑥】父の生前に援助をうけていた兄弟がいた(特別受益)
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:長男・次男・長女(高橋さん38歳)
高橋さん(38歳)は、兄が二人の3人兄弟です。父親が亡くなり、あわただしくお葬式と四十九日を済ませたところ、遺言書が見つかりました。
遺言書には「自宅は次男に、土地を長女(高橋さん)に相続させる」との記載が。自宅は1000万円ほどで、土地は400万円ほどですが、二人とも遺言のとおりに分けることで納得しています。そのほかに財産はありません。
ところが、長男が「自分にももらえる権利があるはず」と主張してきました。兄は生前、住宅の建築資金として父親から700万円の援助を受けています。高橋さんと弟はその分があるので、遺言通りの相続でいいのではと考えています。
アドバイス
兄が生前に父からもらっていた700万円は相続財産を前渡しでもらっていることになるため、特別受益に当たる可能性が高い。
この場合、700万円は財産に戻して計算することになることから、兄は追加で遺産を貰う権利はないと言える。
したがって、遺言書の通りに分けるのが妥当である。
【トラブル事例⑦】兄弟に「介護については、分割割合には関係ない」と言われた
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:長男・次男(中村さん55歳)・長女
中村さんは3人兄弟の次男です。数年前に父親が他界し、一人暮らしの母に認知症の症状があらわれてきたため、母と同居して介護に努めてきました。その母も今年亡くなり、兄弟たちと遺産の分け方について話し合っているところです。
遺産は総額1,000万円。法律に従って等分すれば、中村さんの分は約330万円になります。しかし、他の兄弟よりも頑張って介護をしてきた分、遺産を多めにもらって当然だと思っています。
ところが、他の兄弟も「県外から家族を連れて里帰りもしていたし、十分親孝行をしているじゃないか」と反論してきました。中村さんは他の兄弟よりも多く相続することはできないのでしょうか?
アドバイス
親の介護や看護をしていたとしても、実は寄与分という貢献した分を多く貰える制度の利用は難しい。
また、裁判で寄与分が認められることはあることにはあるが、寄与分の金額は少額であるケースが多いのが事実だ。
【トラブル事例⑧】義母への介護に尽くしてきたのに、夫の兄弟に反対された
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:長男・次男・三男
小宮さん(45歳)は、長男の嫁として義父母の介護に努めてきました。数年前に義父が亡くなったときには、誰よりも頑張って介護をしていたのに遺産を分けてもらうことはできず、やりきれない思いをしました。
なので義母の介護についてはもらう遺産で配慮してもらうことを考えました。しかし、数年前にも夫の兄弟たちに反対されているので、不安です。どうしたらよいのでしょうか。
アドバイス
ただし、請求する相手は、今回の場合のような義母(被相続人)ではなく、兄弟(相続人)になるため、注意が必要である。
ここで重要なのは、権利をちゃんと主張すること。
請求権を行使しなければ、もらえるものももらえない。
【トラブル事例⑨】誰がどの財産を取得するかで意見が割れてしまった
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:兄、富永さん(55歳)、妹
父がなくなり、遺産を確認したところ、
・預金700万円
・実家
・父親が生前に買っていた株式
が主な遺産であることが分かりました。兄が、「ちょうど3つあるのだから、俺が預金、お前(富永さん)は実家、お前(妹)は株式で分割な」と勝手に仕切りだしました。
実家には、もともと親しか住んでおらず、富永さんの住んでいる場所とは違う県にあります。兄は実家の近くにすんでいたので、兄が実家を相続するべきだと主張すると、「実家も重要な財産だし、女が管理するべき」と最低なことを言ってきて、とても腹が立ちました。どうしたら良いのでしょうか。
アドバイス
遺産分割において、誰がどの遺産を相続するか?という話合いをする前に、遺産分割の正式な方法を知っておくことが重要である。
遺産を分割する際は、相続財産が「現金ならいくらになるか」を換算し、遺言がない場合は法定相続分に従って分けることが一般的。
◆財産評価について
・預金、預貯金:死亡時の価格がそのまま相続財産の価格になる
・上場株式:上場株式を扱う取引所が公表する価格のうち、①被相続人の死亡の日の最終価格、②死亡月、③死亡の前月④死亡の前々月の毎日の最終価格の平均額のいずれか①~④のうち、もっとも低い価格が評価額になる
・建物:固定資産税評価額が評価額になる
・土地:原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価する。
よって、今回の場合を仮に
・預金700万円
・実家:建物100万円、土地:200万円
・父親が生前に買っていた株式:200万円
とすると、財産の総額は1,200万円になるため、兄弟ひとりあたりの相続分は400万円となる。したがって兄が預金をもらうとしたら、富永さんに100万円、妹に200万円を現金で払う必要がある。
【トラブル事例⑩】不動産の分割方法で意見が分かれた
◆相続人の関係図
被相続人:母親
相続人:姉、清水さん(41歳)
実家に母と姉3人で暮らしていた清水さん。母がなくなり、相続になりました。
相続財産は実家のみ。葬式などで忙しかったこともあり、実家は共有することで遺産分割を終了しました。
数年後、仕事上の都合で転勤になった姉がいきなりこんなことを言い出しました。「実家ももう古いし、いっそ売りに出して現金でわけよう。」清水さんは実家に住み続けることにしていたので、反対しましたが、今度は「納得できないなら実家の金額の半額をちょうだい」と言ってきました。どうしたらよいのでしょうか。
アドバイス
このトラブルは、すでに遺産分割が行われているため、清水さんは現金などを支払う必要はない。
もし遺産分割で不動産の分割が決まらない!ということであれば、今回の事例のような不動産を共有することはできるだけ避けることをお勧めする。
家の建て替えや、一括で売却するときなどに再び兄弟間でトラブルに発展してしまう可能性があるからだ。
◆家を共有にするメリット・デメリット
【トラブル事例⑪】不動産の評価額について意見が割れた
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:兄、石井さん(46歳)
相続財産:不動産と預金1000万円
石井さんは父親と実家で暮らしていました。父親が他界し、兄との遺産分割になった際、思わぬトラブルが発生しました。
もともと、実家に住んでいた石井さんは実家を相続するつもりでいたので、遺産分割のルールにのっとり、不動産の建物と土地の評価額を算出したところ、おおよそ800万円という結果でした。
兄と石井さんは半分ずつ遺産をもらえる計算になるので、預金の1000万円と不動産800万円を足した1800万円を2等分することになります。石井さんは預金を100万円もらえるという計算でした。
しかし兄が「不動産の評価額はもうちょっと高いはずだ。1000万円分くらいはあるだろう。預金の配分はなしだ。」と言い出しました。どうしたらよいのでしょうか。
アドバイス
相続のとき、財産を分ける「遺産分割」では、特に「不動産の価格の決め方」が相続人の取り分に影響する。
一般的には建物と土地合わせて3つの評価方法があり、評価方法によって不動産価格は異なるため、相続人たちは話し合って合意する必要がある。
◆3つの評価方法
①建物の評価:固定資産税評価額
②土地の評価:路線価方式
③土地の評価:倍率方式
【トラブル事例⑫】不動産を取得することになったが他の相続人が登記に協力してくれない
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:野村さん(53歳)、妹、弟
父親がなくなり、遺産分割協議は多少は揉めたが、実家を相続できることになった野村さん。
不動産の登記が義務化されるという話を耳にしたため、相続登記を行おうとしたが、他の相続人が印鑑証明の提出を拒否してきた。ここにきて腹いせに嫌がらせをしてきている兄弟がいる状況。どうしたら良いのでしょうか。
アドバイス
まず、相続登記というのは、遺産をもらった人が、その遺産の不動産(土地や建物みたいなもの)の名前を変える手続きのことである。これをするには、法務局に書類を提出しなければいけない。
ただし、その書類については、相続が本当にあったことを証明するものを一緒に出さないといけない決まりである。たとえば、遺産分割協議書。これが相続割合を書面で確定させたもの。これがないと、相続登記ができない。
具体的には以下のようなケースだ。
①遺産分割協議が成立したものの、遺産分割協議書がない場合
協力しない相続人を相手方として、所有権の確認訴訟を提起し、その勝訴の確定判決を、相続を証する書面の一部として法務局に提出することで、単独で相続登記申請を行うことができる。
②遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書はあるものの、印鑑証明書がない場合
遺産分割協議書の原本が手元にあるのであれば、手続に協力しない相続人を相手に、遺産分割協議書の真否確認の訴えを提起し、その勝訴の確定判決を、相続を証する書面の一部として法務局に提出することで、単独で相続登記申請を行うことが可能。
まとめると、不動産登記に協力してくれない場合の対処は、その場合によってかなりバリエーションがある。
【トラブル事例⑬】家業のレストランを継いだら遺留分を請求された
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:野村さん(53歳)、弟
野村さんは、2人兄弟の長男です。父親が体を壊したことをきっかけに、両親が切り盛りするレストランを引き継ぎました。その際、父親名義だった店の建物を贈与され、手続きもしています。店の2階は自宅で、野村さん一家と両親が暮らしています。
今年、父が亡くなりました。遺産は、預金が少しある程度です。野村さんはその預金を母親と弟に相続させたいと思っています。
ところが弟は「自分には遺留分があるのだから、レストランと自宅を売って現金をよこせ」と言ってきました。野村さんとレストランはどうなってしまうのでしょうか。
アドバイス
遺留分とは、最低限受け取れる遺産のこと。自分が最低限受け取れる遺産まで独占している相続人に対し、金銭での精算を求めることができる。(遺留分侵害額請求)。
ただし、2019年7月1日以降の相続では、遺留分侵害額請求の対象となる財産の範囲が、「相続開始前の10年間にされたもの(特別受益に該当するのに限る)」に限定された。つまり、12年前に贈与を受けた岡田さんは、弟の請求に応じる必要はない。
【トラブル事例⑭】父親の前婚に生まれた半血の兄弟から遺産を請求された
◆相続人の関係図
被相続人:父親
相続人:香川さん(47歳)
香川さんは一人っ子です。両親が他界し、相続することになりました。相続人は自分しかいないと思い込んでいたのですが、調べてみると、血縁関係にある前妻の子も自分と同じ第1順位の相続人かもしれないことがわかりました。
ほとんど連絡をとっていなかったので、できれば自分一人で相続をしたいと考えています。この場合、どうしたら良いのでしょうか。
アドバイス
法定の相続人に、お互いにあまり仲がよくない半血の兄弟がいると、相続に関するトラブルがおきる可能性がたかくなるので注意が必要だ。
お互いにぎくしゃくしていたり、あまりコミュニケーションが取れていないと、相続に関する問題が発生する可能性もある。また、半血の兄弟が相続手続きに協力的でなかったり、遺産を分ける話し合いがスムーズに進まなかったりすることもある。
もしこの記事を読まれており、まだ被相続人が生きているなら、「遺言書の作成」は必ず行なっておいた方が良い。
【トラブル事例⑮】兄弟が認知症の父親をだまして贈与をうけていた
◆相続人の関係図
被相続人:母親
相続人:本郷さん(50歳)、妹
母親が亡くなり、相続になったところ、本郷さんは思ったより遺産が少ないことに気がつきました。いろいろ調べていると、妹が母親から生前贈与をもらっていたことが判明。
母親は認知症を患っており、これはよくないとおもった本郷さん、妹から預金を返してもらうことはできるのでしょうか。
アドバイス
残念ながら、贈与が完了した部分は原則として解消できない。
生前に自分の財産をどう処分するかは本人の自由だが、認知症などで財産をだましとられてしまう恐れがあるなら、本人の望みにそって相続を行う「成年後見制度」の活用がおすすめだ。
◆成年後見制度とは
認知症などで判断能力が十分でない人をサポートする制度。成年後見人が本人に代わって権利を守り、手助けをするというもの。
兄弟トラブルを自力で解決するためのコツ
ここからは実際に相続のトラブルに巻き込まれてしまった場合、自力で解決するためのコツをお教えする。
相続に関する理解を深める
まずは、相続の制度についての理解を深めるということだ。もっとも基本的な相続する権利は誰にあるのか?や具体的にはどのくらいもらえるのか?といった法定相続人と、法定相続分・遺留分については押さえておきたい。
強気の相続でも図を用いてわかりやすく解説しているので是非読んでみてほしい。
相手の話を聞くふりをしながら交渉する
一度遺産分割でトラブルになってしまった場合、そこから話し合いで解決するということは本当に難しい。人の負の感情はどんどんふくれあがっていくものだから、長引けば長引くほど、お互いを傷つけ合ってしまうことも少なくない。
早めにお互いの主張の「落とし所」を見つけることを意識するべきである。
落とし所を見つけるときには、ひとつのテクニックとして「相手の意見を聞き、その意見にのっとった提案をする」というものがある。
つまり、自分の意見を通すために相手の意見を聞くということだ。
ただし、これは相手が「話の通じる人であること」が前提にあるため、そもそも話し合いが困難な相手の場合は、無駄な時間になってしまうので注意が必要。
解決方法を弁護士に聞いてみる
最終的に、自分で解決を試みた結果、難しいと感じた場合はすぐに専門家に相談することをおすすめする。相続が長引くことでのデメリットが大きいからだ。具体的には以下の通りである。
相続トラブルが長引くことによるデメリット
・相続財産を使えない
・不動産は固定資産税がかかる
・不動産は評価額が下がることもある
・相続人の一人が亡くなってしまうと、さらに新たな相続人が登場し、相続が余計に複雑化する
・相続放棄の期限に間に合わない(相続があることを知ってから3ヶ月)
・相続税の申告に間に合わない(相続があることを知ってから10ヶ月)
・心身ともに疲弊
・時間の無駄
・争いが激化すると相続人同士が絶縁してしまうこともある
このように相続が長引くこと自体、面倒くさいし、やる気がでないし、日常生活に支障がでる。弁護士に依頼したときにちゃんと自分の利益が残ると判断できるなら、即刻専門家に依頼した方が良いと筆者は考える。
弁護士に依頼することで遺産を貰える可能性が高くなる
弁護士は依頼者の利益を最大化するように動いてくれるため、自分で交渉するよりも遺産をもらえる可能性が高くなる。
弁護士費用を払ったとしてもせいぜい100万円程度。
一見すると大きい数字にみえるかと思うが、500万円分の相続ができたとすると400万円程度は手元に残る計算だ。遺産を完全にもらえないことになるより、しっかりと専門家に依頼し、自分がもらえるはずである遺産をもらった方が、得ではないだろうか。
筆者は早く面倒を片付けたいと思うタイプである。もらえる遺産金額と弁護士費用を把握し、利益がでるとわかったならすぐに依頼し、片付けてもらうことを選択する。
無料で相談できる事務所も多くあるので、泣き寝入りで損してしまう被害者の方が少しでも減るように祈っている。
まとめ
今回は相続トラブルについていろいろな事例を紹介してきたが、書いていて気が滅入ってきたので、焼肉でも食って寝るとする。
今、相続で悩んでいる方も早期解決して、美味しいものを食べて、酒を飲んで、暖かい布団の中でぬくぬく、昼ごろまでぐっすり寝てほしい。