「我が家には争いごとも少なく、財産もそれほど多くないため、相続トラブルは考えられないだろう」と思っているかもしれません。しかし、近年では親世代の高齢化や親子間の経済格差などが影響して、相続が発生すると同時に家族内でトラブルが発生するケースが増えています。以下では、よくある相続トラブルの事例やその対処法について紹介します。
相続人の関係については以下の記事を読んで理解してくれ
相続税のトラブル事例1|申告期限が過ぎてしまう
状況
父親が亡くなり、母親と3人の息子が相続人となりました。しかしこの時、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまりませんでした。
問題点
相続財産が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税が発生します。この場合、相続人が4人であるため、相続財産が5400万円を超えると相続税の対象となります。
相続税の申告・納税は相続開始から10ヶ月以内に行う必要があります。そのためには、遺産分割協議を通じて各相続人が相続する財産を確定させる必要があります。しかしながら、相続人の中には遠方に住んでいる者や音信不通の者がおり、遺産分割協議がスムーズに進まないことがあります。また、協議が可能であっても、各相続人が最大限の財産を手に入れたいという意向が一致せず、話し合いが難航することもあります。
対処法
相続税の申告期限までに遺産分割協議が結論に達していない場合、法定相続分に基づいて相続税を計算し、未了のまま期限内に納税する必要があります。特に、相続税には配偶者の税額軽減や小規模宅地等の課税価格の特例が存在しますが、これらの特例は相続財産が共有状態の場合には適用されません。
ただし、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が完了すれば、再度申告を行い特例の適用を受け、過剰に納めた税金を還付してもらえる可能性があります。
相続税のトラブル事例2|相続財産が不動産のみで、税金がかかってしまった
状況
母が亡くなり、相続財産が母の名義にある自宅の土地と建物だけで、相続人は兄と弟の2人です。しかしながら、兄は妻子と一緒に母と同居していました。
問題点
不動産は容易に現金のように分割できないため、遺産分割の際に問題が生じやすいです。このケースでは、「現物分割」の方法が考えられ、土地を兄、建物を弟が相続する形にすることができます。しかしながら、土地と建物の所有者が異なると将来的に不都合が生じる可能性があります。
土地と建物を兄弟で共有する「共有分割」も選択肢ですが、共有不動産を処分するには共有者全員の合意が必要であり、将来的な売却の際に問題が生じる可能性があります。
「換価分割」を選ぶと、土地と建物を事前に売却し、その代金を分割することができますが、母と同居していた兄とその家族が住む場所を失うことになります。
対処法
このケースでは、兄が土地と建物を相続し、その後兄から弟に代償金を支払って「代償分割」する方法が考えられます。代償分割は、相続人が相続した財産の一部を他の相続人に対して代償金を支払いながら清算する方法です。ただし、代償分割を行うには、兄が代償金を用意できることが前提となります。
代償分割を行う際には、不動産の評価方法によって相続税の額が変わります。また、遺産分割協議書に代償分割に関する記載がない場合、代償金に贈与税が課税される可能性があるため、慎重に進める必要があります。
相続税のトラブル事例3|生命保険が引き金に、不平等な相続になってしまった
状況
父親が亡くなり、2人の息子(兄と弟)が相続人となりました。しかし、兄は父がかけていた生命保険の受取人であり、多額の保険金を受け取っています。
問題点
生命保険の死亡保険金は受取人独自の権利であり、相続財産には含まれません。そのため、兄は遺産分割協議を行わなくても、保険金を自身のものとして全額受け取ることができます。この状況では、通常の遺産分割を行うと、兄だけが多額の財産を手にすることとなり、兄弟間で著しい不公平が生じる可能性があります。
対処法
特定の相続人が被相続人から生前に特別な利益を受けた場合、「特別受益」としてその分の金額を相続財産に加えて遺産分割を行うことが考えられます。死亡保険金は原則として特別受益には含まれませんが、相続人間で著しい不公平が生じる場合には特別受益として扱うことができるとする判例が存在します。この具体的なケースでも、弟は兄の特別受益を主張し、その分相続財産を適正に分ける可能性があります。
ただし、死亡保険金は民法上の相続財産には含まれませんが、税法上は相続税の課税対象となります。ただし、死亡保険金の一部(500万円に法定相続人の人数をかけた額まで)は非課税とされています。
まとめ
相続においては、家族の感情的な複雑さから、話し合いが難しく争いに発展することがあります。一般的に、相続人の数が増えるほどトラブルの可能性が高まり、解決までに時間がかかることが一般的です。
相続の問題は個々の事情に依存するため、先述のようなケースでも必ずしも標準的な対処法で解決できるわけではありません。また、これはあくまで一例に過ぎず、他にも多岐にわたるトラブルが発生する可能性があります。
相続に関する対策や手続きは、早めに専門家に相談することで、不要な相続トラブルを未然に防ぐ重要性があります。
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