実家の相続に際しては、居住、賃貸提供、売却など、複数の選択肢が考えられます。相続手続きには、相続税の申告や実家の名義変更など、押さえておくべきポイントが数多く存在します。相続が発生した瞬間から始まる手続きの流れに従いながら、基本的な要点を説明します。
実家の相続において考えられる選択肢とは
通常、実家の相続は親が亡くなった場合が多いと考えられます。実家を相続する場合、以下のような選択肢が考えられます。
- 自分や親族が居住する
- 売却または賃貸に出す
- 更地にして新たな活用を考える
- 相続権を放棄するか、あるいは限定的な承認をする
それぞれについて詳しく説明します。
自分や親族が居住
自分や親族が実家を相続して居住する場合、年々発生する固定資産税などの保有税や、老朽化が進んでいる場合は修繕が必要となる点に留意する必要があります。
売却や賃貸出す
売却や賃貸を検討する場合は、複数の不動産業者に相談してみると良いでしょう。近隣の相場を確認し、検討すべきです。立地条件が優れ、借り手が迅速に見つかる可能性がある物件であれば、リフォームを施して賃貸に出すことも有効です。また、相続した空き家を売却する場合には、利益(譲渡所得)から最高3000万円を差し引く特例(税制優遇)も適用される場合があります。
更地にして活用
実家の建物を解体し、更地にする場合は、駐車場、アパート、ロードサイド店舗など、様々な土地活用が考えられます。土地の広さや立地に合わせて最適な活用方法を検討すると良いでしょう。ただし、建物の解体には最低でも100万円前後の費用がかかり、更地のままにしておくと固定資産税が最大6倍に増加する可能性があるため、これらの点に留意する必要があります。
相続放棄または限定承認を選択する
実家を相続したくない場合、相続放棄は一つの選択肢ですが、自宅だけを選択して引き継ぐことはできず、すべての相続財産を放棄する必要があるため、慎重に考える必要があります。ただし、生命保険金など受取人に指定された財産は引き続き受け取ることができます。
限定承認は、亡くなった方の債務などマイナス財産に関して、相続財産の中のプラス財産の範囲で相続人が責任を負う制度です。ただし、手続きが非常に複雑であるため、実際に利用する人は少ない傾向にあります。
どちらの選択肢も手続きの期限は相続開始から3カ月以内となりますので、迅速な対応が求められます。
実家を相続する際に、必要な手続きと覚えておくべき期限
実家の相続において覚えておくべき手続きと期限は、相続発生を知った時から3カ月、4カ月、10カ月となっています。
まずは財産状況の調査と遺言書の確認が重要
相続が発生した際には、亡くなった方の名義になっている財産を詳細に調べることが必要です。直ちに亡くなった方が契約していた金融機関(銀行、証券会社、保険会社など)にも迅速に連絡しましょう。家族に知られていない借金などがある場合、調査には時間がかかることもあります。
また、遺言書やエンディングノートが存在するかどうかも早急に確認しておくべきです。遺産分割には明確な期限が設けられていませんが、円滑に進めるためにもこれらの有無は重要です。自筆の遺言書が見つかれば、速やかに家庭裁判所に提出し、「検認」の手続きを行う必要があります。
正式な遺言書があれば、それに基づいて遺産分割を進めるのが基本です。エンディングノートは法的な効力はありませんが、亡くなった方の意向を確認する上で有益な情報となるでしょう。
相続放棄や限定承認の期限は3カ月以内
親が亡くなり、喪失感や慌ただしさに包まれる中で迫ってくるのが「3カ月」の期限です。基本的に、相続が開始したことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません。
特に、亡くなった方が多額の借金を抱えていた場合には、相続放棄か限定承認を検討する必要があります。亡くなった方の名義にある財産には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金など)も含まれており、そのマイナスがプラスよりも多い場合、3カ月以内に相続放棄または限定承認をしないと、相続人は残された借金などを返済しなければなりません。実家の相続を断る場合は、迅速な検討が求められます。
相続放棄は1人(単独)でも可能ですが、限定承認は相続人全員で行う必要があります。どちらもメリットとデメリットが存在しますので、検討する際は相続に詳しい弁護士や司法書士に相談するべきです。また、3カ月の期限を過ぎると、原則として単純承認となり、プラスとマイナスの財産すべてを相続することになります。
準確定申告は4か月以内
次に迫るのが「4カ月」の期限で、これは亡くなった親の「準確定申告」です。亡くなった年の1月1日から亡くなる日までの年金等の収入に対する所得税の確定申告を指します。
ただし、その年の年金収入が400万円以下で、その他の所得が20万円以内であれば、確定申告は不要です。従って、所得が多く、不動産所得などがある方や、医療費控除で所得税の還付が受けられる方以外は、この準確定申告に関して気にする必要はあまりありません。
相続税の申告と納付は10カ月以内
最後は「10カ月」の期限で、これは相続税の申告と納付の期限です。ただし、亡くなった人名義の財産が「相続税の基礎控除」の範囲内であれば、相続税は発生しませんし、申告の必要もありません。相続税の基礎控除は、「3000万円+法定相続人の人数×600万円」となっています。
相続税が実際に発生するかどうかや、申告の必要性については、正確な情報を得るためにも調査が必要です。不安な場合は、相続税に詳しい税理士や税務署に相談することをお勧めします。
遺産分割協議書や名義変更も早めに
相続税の申告期限がないとはいえ、遺言書が存在しない場合、遺産分割協議は早めに進めておくことが望ましいです。特に、相続人が複数いる場合、それぞれが負担する相続税額に影響を及ぼす可能性があります。
相続税が発生しない場合でも、銀行や証券会社の口座引き継ぎや実家の名義変更(相続登記)には、遺産分割協議書や相続人全員の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)、印鑑証明などが必要です。早めに協議を始め、協議書の作成には相続に詳しい弁護士や司法書士、行政書士に相談することが重要です。
また、実家を相続することが確定したら、まず相続登記を行い、自分の自由な処分が可能になります。相続登記はこれまで義務ではありませんでしたが、2024年4月から義務化される予定です。3年以内に相続登記を行わない場合、10万円以内の過料が科される可能性があります。
実家を相続したときの税金
実家を相続した場合には、相続税と登録免許税が発生します。
相続税
相続税において、亡くなった人の財産額を算出する際、現金や株式などの金融商品は通常、時価で評価されます。一方で、実家を含む土地や建物などの不動産に関しては、建物は固定資産税評価額で計算され、土地は相続税路線価に基づく路線価方式または、固定資産税評価額に基づく倍率方式のいずれかにより、相続税評価額が算定されます。
登録免許税
登録免許税は、登記手続きに伴う税金であり、相続登記の場合は不動産の固定資産税評価額の0.4%の税率が課されます。この税率0.4%は、売買や贈与による所有権移転登記の際の登録免許税の税率2%と比較して、5分の1と低くなっています。
実家を相続するとき考慮すべき相続税の節税方法
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、実家を相続する際に利用できる節税方法の一つです。通常、この特例は亡くなった人と同居していた配偶者などが受けることができ、特定居住用宅地等に該当する土地は、330平方メートルまで評価額の80%を減額してくれる制度です。
例えば、1億円の評価額の土地であっても、この特例を適用すると80%減額され、2000万円で評価されることになります。これはかなりの優遇措置と言えます。ただし、この特例を利用するためには、亡くなった人と同居していなかった子が利用する場合には、亡くなった人に配偶者がいないか、またはマイホームを所有していないなどの要件を満たす必要があります。
配偶者の相続税軽減制度
配偶者に対しては、婚姻期間の長さに関係なく、相続税において大きな優遇が与えられています。それが、配偶者の相続税額軽減制度です。この仕組みにより、配偶者は相続した財産の金額が1億6000万円か、法定相続分相当額のどちらか高い方まで、相続税を全く支払わなくても済みます。
例えば、相続人が配偶者と子供の場合、法定相続分の配偶者分が2分の1になります。そのため、相続財産の評価額が100億円だった場合でも、配偶者が相続するのは50億円までであり、相続税は一切発生しません。
実家を相続する場合も、亡くなった人(例えば、父親)の配偶者(母親)が健在であれば、この配偶者の税額軽減制度を活用することで、総合的な相続税を削減することが可能です。ただし、配偶者の税額軽減は、納税額がゼロでも確定申告が必要です。また、将来的に配偶者(母親など)が亡くなったときの相続(二次相続)に備えるための対策も考慮する必要があります。
相続空き家の3000万円特別控除制度
相続した実家が空き家の場合、一定の条件を満たすと、その空き家を売却(譲渡)した際に、譲渡益から3000万円を差し引くことができる特別控除が設けられています。言い換えれば、空き家を売却した際の利益が3000万円以下の場合、所得税が発生しないという仕組みです。主な条件は以下の通りです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された住宅であること
- 相続開始直前に亡くなった人以外に住んでいた人がいないこと
- 令和5年12月31日までに売却が完了していること
- 売却代金が1億円以下であること
これらの条件を満たす場合、相続した空き家の売却に伴う所得税負担を軽減するために、この特別控除を利用することが可能です。
相続空き家の3000万円特別控除制度
相続した実家が空き家の場合、特定の条件を満たすと、その空き家を売却(譲渡)した際に、譲渡益から3000万円を差し引くことができる特別控除が用意されています。言い換えれば、空き家の売却による利益が3000万円以下の場合、所得税が課されないという制度です。主な条件は以下の通りです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された住宅であること
- 相続開始前に亡くなった人以外に住んでいた人がいないこと
- 令和5年12月31日までに売却が完了していること
- 売却代金が1億円以下であること
これらの条件を満たす場合、相続した空き家の売却に伴う所得税負担を軽減するために、この特別控除を利用することができます。
実家を相続する際の注意点
共有は問題のもとになりやすい
実家の土地や建物を複数人で共有することは、将来的にトラブルの元となる可能性が高まります。そのため、土地や建物はできるだけ細かく分割せず、共有状態を避ける方が賢明です。例えば、実家の不動産の所有権を長男に1/2、次男に1/2と分割してしまうと、将来の売却や賃貸手続きが煩雑になるだけでなく、相続時の問題も生じやすくなります。これが原因で親戚間での紛争が発生する可能性も考慮すべきです。
空き家は放置せず、適切な対策を
近年、空き家問題が深刻化し、2015年2月には「空き家対策特別措置法」が全面施行されました。相続した実家をただ放置することは、税負担の増加や行政からの費用負担要求、近隣からの損害賠償請求のリスクが高まる可能性があります。物件の状況に応じて適した対策を検討するためにも、複数の専門家に相談してみることが重要です。
公平な相続財産分けの難しさと代償分割
相続人に兄弟姉妹がいる場合、実家の相続者とそれ以外の相続人とで財産を均等に分けることは難しい場合があります。現金などの相続財産がない場合、問題が生じる可能性があります。このような場合、相続者が他の相続人に対して代償金を支払いながら相続財産を清算する「代償分割」が一つの選択肢となります。
まとめ
相続手続きは短期間で様々なステップを踏む必要があります。実家の相続では、住むのか、売るのかなど、その後の手続きや税金は使い道によって異なります。途中で迷った場合は、司法書士、弁護士、税理士などの専門家に早めに相談することが安心感を得る一環となります。