生活保護を受給していても遺産相続、放棄はできる?

生活保護を受けている人が相続人となった場合、遺産を相続することはできます。しかし、相続した場合、生活保護の受給資格に影響がある可能性があります。生活保護の受給資格や給付額は、財産や所得などの状況を考慮して決定されます。相続によって得られた遺産が一定の範囲を超える場合、生活保護の受給資格が失われることがあります。

また、相続放棄を行った場合、相続人としての権利を放棄することで、生活保護の受給資格を維持することができるかもしれません。ただし、相続放棄の可否や具体的な影響はケースバイケースで異なるため、具体的な状況に基づいて弁護士と相談することが重要です。

目次

生活保護を受給していても遺産は相続できる

生活保護を受給している人が相続人となった場合、遺産を相続することはできます。しかし、相続によって得られた遺産が一定の範囲を超えると、生活保護の受給資格に影響が出る可能性があります。生活保護の支給資格は、財産や所得などの状況を考慮して決定されるため、相続による変動がある場合は自治体に報告する必要があります。

相続によって受給資格に影響が出る場合、生活保護の支給が一時的に中断されることもあります。この中断が一時的なものであるか、それとも受給資格が完全に喪失されるかは具体的なケースにより異なります。生活保護受給者が相続に関する具体的な状況については、弁護士や福祉事務所などで専門家に相談することが重要です。

生活保護の受給資格とは

生活保護の受給資格について、生活保護法は以下のように規定しています。

生活保護法4条1項:「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」

生活保護法4条2項:「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」

上記の規定から生活保護を受給するための主な要件は、以下のとおりです。

  1. 生活に困窮していること
  2. 利用可能な資産や能力、その他あらゆる手段を活用しても最低限の生活ができないこと

また、扶養義務者による扶養や他の法律による扶助があっても、それが生活に困窮する者の最低限度の生活の維持に不足している場合、生活保護が行われます。生活保護の受給資格は具体的な状況に基づいて判断され、自治体が担当しています。

相続財産の額によっては、生活保護の受給が停止または廃止される

生活保護は、「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」した上で、「不足分を補う程度において」行われるものとされています(生活保護法8条1項)。

したがって、相続により遺産を受け取り、それによって最低限度の生活を維持できるようになった場合、「保護を必要としなくなったとき」(同法26条)に該当し、生活保護の受給が停止または廃止されることがあります。停止や廃止に至らなくても、相続による資産の増加により受給額が減額される可能性もあります。

なお、生活保護が停止または廃止された場合であっても、遺産を使い切り再び生活に困窮した場合には、改めて生活保護の申請を行うことが可能です。

少額の財産であれば、生活保護の受給を続けられる

生活保護の受給を続けられるかどうかは、相続した遺産を活用しても最低限度の生活を維持できるかどうかに依存します。少額の財産であれば、生活保護の受給を続けられる可能性があります。逆に言えば、相続した遺産を活用しても最低限度の生活の維持ができない場合は、生活保護の停止や廃止にはなりません。

たとえば、1か月の保護費に満たないほどの少額の現預金を相続した場合は、生活保護の受給を続けることができるでしょう。また、地方の不動産を相続しても現金化が難しく、最低限度の生活の維持に活用できない場合は、生活保護の受給資格には影響がないことが通常の状況です。

受給を続けられる「少額の財産」はいくらまで? 

生活保護の受給を続けられる「少額の財産」について、具体的な金額の基準は決まっていません。ただし、一般的には臨時的な収入の増加があった場合、6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想される場合は生活保護を停止し、6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められる場合は生活保護を廃止するという運用が行われています。

例えば、1か月に支給される保護費が12万円で相続した現預金が60万円であれば、6か月分の保護費の額を超えませんので、廃止はされないでしょう。一方で、相続した現預金が100万円であれば、6か月分の保護費の額を超えるため、廃止される可能性があります。

具体的な状況によって判断が変わるため、担当のケースワーカーに相談してみることが重要です。

生活保護受給者は相続放棄できない?

相続放棄自体は可能

相続放棄自体は可能で、生活保護受給者であっても家庭裁判所での相続放棄は可能です。生活保護受給者であることを理由に、家庭裁判所が相続放棄を受理しないことはないでしょう。

ただし、家庭裁判所での相続放棄が可能であったとしても、相続放棄が生活保護に与える影響は別問題です。生活保護法上の「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」するという要件(4条1項、資産活用の要件)との関係で、相続した遺産は最低限度の生活の維持のために活用すべき、とも考えられます。

ただし、相続放棄は身分行為であり、この要件があるからといって相続放棄をする自由を制約すべきではないとの判断もあります。裁判例では、「相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきではない」との立場が取られています。

相続放棄を希望する場合は、相続放棄には3カ月という期間制限があるため、早めに担当ケースワーカーや弁護士に相談することが重要です。

生活保護受給者が相続放棄を検討すべき場合

生活保護受給者が相続放棄を検討すべき場合は、以下のようなケースが考えられます。

  1. 借金などのマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合:
  • 相続した財産が債務よりも少ない場合、相続することでかえって経済的な負担が増える可能性があります。この場合、相続放棄を検討するべきです。
  1. 処分が困難な不動産などがある場合:
  • 不動産などの財産を処分することが難しく、その維持費や相続に伴う複雑な手続きが生活に負担をかける場合、相続放棄を検討するべきです。

ただし、これらの場合でも相続放棄が適切かどうかは慎重に判断すべきです。生活を維持するために活用できる遺産があるかどうか、相続放棄による法的・経済的な影響を確認するためにも、事前に担当ケースワーカーや弁護士に相談することが重要です。

なお、相続放棄ができるとしても、相続放棄をすることが適切かどうかは家族構成や関係者との協議を通じて検討すべきであり、慎重な判断が必要です。

生活保護受給者が相続人となった場合の留意点

生活保護を受給しながら保有できる財産には以下のような条件があります。

  1. 最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持や自立の助長に有効である資産:
  • 生活保護を受給しながらも、生活維持に必要な資産や自立を助長するために有益な資産は保有できる場合があります。
  1. 処分することができないか又は著しく困難である資産:
  • 資産を処分することができないか、あるいは著しく困難である場合、それを保有できる可能性があります。
  1. 売却代金よりも売却に要する経費が高い資産:
  • 資産を売却するためには高額な経費がかかる場合、その資産を処分するよりも保有している方が経済的に妥当な場合、保有が認められることがあります。

相続する遺産が生活保護の支給に影響を与えるかどうか不安であれば、担当ケースワーカーに確認してみることが重要です。生活保護の支給においては、個々のケースに応じた柔軟な対応が行われることがあります。

遺産を相続したら、必ず福祉事務所等に届け出ること

遺産を相続した場合、生活保護を受給している場合でも、必ず福祉事務所等に届け出ることが求められます。生活保護法61条によれば、生活保護の利用者が世帯主または世帯員として収入が発生した場合、それを速やかに保護の実施機関または福祉事務所長に届け出る必要があります。遺産相続もこの対象に含まれます。

遺産を相続した場合の届け出は、生活保護の法的手続きの一環であり、これによって受給条件や受給額が変更される可能性があります。遺産を相続しても生活保護を受給することは原則として可能ですが、その際には受給条件の見直しが行われ、相続による影響が確認されます。

不正な手続きを避け、正確な情報提供が求められます。不正受給が発覚した場合、不正に受給した額に対して最大40%の上乗せが課せられ、返済が求められることになります(生活保護法78条)。したがって、遺産相続の際は誠実かつ迅速に届け出るよう心掛けましょう。

相続放棄ができる場合もあるので弁護士らに相談を

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内という期限があるため、迅速な対応が必要です。また、一度相続放棄の手続きが受理されると、原則として「撤回」は認められていないため、その決断には慎重さが求められます。相続放棄ができる場合もあるため、この決断に迫られた場合は、早めに担当ケースワーカーや弁護士に相談することが大切です。

まとめ


生活保護受給者の遺産相続について説明しました。少額の現預金や財産の種類によっては、生活保護を受給しながら相続できます。

弁護士に相談したい場合の窓口としては、日本司法支援センター「法テラス」がおすすめです。法テラスでは、生活保護受給者は、弁護士・司法書士と面談のほか電話などでも無料で法律相談を受けることが可能です。詳しくはお近くの法テラスに問い合わせてみてください。また、初回相談を無料で応じている弁護士事務所もありますので、利用を検討してもよいでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次