事業承継で発生する相続トラブルとは?5つのケースと対策方法を解説!

事業承継は、企業が円滑に事業を継続させる上での重要な過程です。

新たな経営者に事業を引き継ぐ前には、まずリスクや留意点を整理する必要があります。特に、「人(経営)」「資産」「知的資産」の三つに焦点を当て、それぞれに対する対策を検討しておくと良いでしょう。

企業の状況は多岐にわたるため、自社の課題を正確に把握できていない経営者も存在します。また、事業承継を先延ばしにすることで、短期間で実行しようとした際にトラブルのリスクが高まります。

この記事では、事業承継時に発生する可能性のある様々なトラブル事例と、それに対する対策や解決策を詳しく解説します。トラブルを回避するために、ぜひご参考にしてください。

相続人の関係については以下の記事を読んで理解してくれ

目次

日本政策金融公庫によるデータ


データによると、事業承継におけるトラブルの種類を確認してみましょう。

日本政策金融公庫が行った調査によれば、すでに後継者が確定している企業において、「事業承継時に問題に発展しそうな事柄」を検証しました。その結果、「後継者の経営能力」が32.0%と最も高くなり、それに続いて「相続税・贈与税の問題」が23.7%、「取引先との関係の維持」が22.8%という結果が得られました。

(出典: 中小企業の事業承継に関するインターネット調査|日本政策金融公庫(2020年) 調査時期:2019年10月 回答社数:356社(複数回答あり))

「事業承継時に問題に発展しそうな事柄」に対して「特にない」と回答した企業はわずか32.6%でした。この結果から、事業承継が確定している企業であっても、おおよそ7割が何らかの不安を抱えていることが明らかとなります。以下では、代表的なトラブル事例とその解決策を紹介いたします。

世代交代の社長さんはトラブルのもとになるんにゃな

トラブル事例1|自社株取得に伴う高額な費用負担が発生し、事業の継続が難しくなる

家族内での事業承継では、通常、現経営者がオーナーとして兼任し、企業の株式の大半または100%を所有していることが一般的です。中小企業のオーナーは、資産の相当部分を自社株に割り当てることが一般的であり、経営が順調な場合には、自社株の評価が向上する傾向があります。

このため、承継時に相続される自社株の評価が高額になり、それが金融資産の総額を上回る場合があります。後継者は金融資産の不足により、自社株を購入することが難しくなり、結果として事業を引き継ぐことが難しくなる可能性があります。

自社株式や事業用資産の取得に伴う準備として、自社株の評価を過剰に高めないようにする取り組みが重要です。

トラブル事例2|株式の分散が進み、重要な意思決定に影響が及ぶ

オーナーが遺言書を残さずに亡くなり、配偶者と2人の子供に相続が発生した場合を考えてみましょう。

代表取締役を務める長男は、父の配偶者と共に「事業用資産の全てを相続する」と提案しましたが、別の企業で働く弟に反対され、法定の相続割合に基づいて相続が確定しました。

このため、経営とは無縁の次男にもある程度の拒否権や支配権が認められることとなりました。後継者である長男は、役員の選任や解任、事業の業態転換などを自由に実施できず、事業に悪影響が及んでしまいました。

これらのトラブルを未然に防ぐためには、事前に暦年贈与を通じて後継者に徐々に自社株を譲渡するか、遺言書で法定相続分の半分までを次男に割り当てておくなどの対策が検討されます。

トラブル事例3|取引先と関係を切られてしまう

先に挙げた「事業承継の際に問題になりそうなこと」のアンケートでも上位にランクインしたように、事業承継に伴い既存の取引先が離れるケースが発生することがあります。

ある企業では、先代経営者との縁によって長年信頼を築いてきた仕入先が、経営者の交代を境に取引を断られてしまいました。

この背景には以下のような要因がありました。

  • 取引先は特定の得意先にしか商品を供給せず閉鎖的であった。
  • 後継者が異業種出身であることが好意的に受け取られなかった。
  • 先代経営者からの引継ぎが不十分で、これが誤解を招いた。

人脈、ネットワーク、および知的資産については、後継者が時間をかけてコミュニケーションを築くことが重要です。取引先への訪問に後継者を同行させ、信頼を築くための努力を惜しまないようにしましょう。可視化されない経営資源を引き継ぐためには、これらの努力が不可欠であり、怠ることは長年にわたって培った無形財産を失う可能性を孕んでいます。

トラブル事例4|後継者への事業引き継ぎの困難さ

中小企業白書(中小企業庁)によると、多くの経営者が「経営状況の詳細な伝達」に苦心しており、「取引先との関係維持」に次いで、2番目に多い悩みとされています。

後継者への事業引き継ぎには、自社株の引き継ぎや外部への配慮が多忙で、経営方針や事業の要点を後継者に十分に伝える時間が確保できない場合があります。特に、社外から後継者を招く場合は、引き継ぎが特に重要です。適切な教育を提供できなかった結果、これまでの経営理念に共感していた重要な幹部社員が離職する事例も見受けられます。

後継者自身も、「企業理念や経営方針は自身が引き継がなければならない知的資産である」との自覚を持ち、積極的な学習姿勢が不可欠です。経営者も、後継者との密接なコミュニケーションを重視し、継続的な対話を大切にすることが重要です。

トラブル事例5|M&Aで着手が遅れて成立せず

ある企業では、経営者が高齢化し、適切な後継者が見つからず、そのためM&Aを模索していました。

しかし、忙しい日々の業務に追われ、後継者の問題を後回しにしてしまった結果、借入金で何とか事業を継続していたものの、業績は悪化の一途を辿りました。やがて、M&Aに興味を示すパートナーが現れたときには、すでに企業の活気は失われており、交渉は不調に終わりました。

買い手との出会いや交渉には数カ月から1年程度かかることが一般的です。したがって、M&Aのスタートが遅れれば選択肢が限られてくることを認識する必要があります。

早期の検討と迅速な決断が不可欠であり、着手を後回しにしない姿勢が重要です。

事業承継のトラブルの対策方法

事業承継の進行パターンによって異なるトラブルが生じることがありますが、事例を通して得られる対策や注意点は以下の通りです。

  1. 早期に着手し計画的に進める:
    • 事業承継には時間がかかることがあります。早期に計画を立て、進捗を計画的に管理することが重要です。
  2. ふさわしい後継者を選ぶ:
    • 後継者の選定は慎重に行う必要があります。経営理念や企業文化に共感し、経営能力がある候補者を選ぶことが成功の鍵です。
  3. 選んだ後継者に適切な教育を行う:
    • 後継者には事業の要点や経営スキルを効果的に伝えるための教育が不可欠です。充実した教育プログラムを提供し、スムーズな引き継ぎを図りましょう。
  4. 生前贈与や遺言書で相続による争いを未然に防ぐ:
    • 財産の整理や生前贈与、遺言書の作成などを通じて、相続に伴う争いを未然に防ぐための手続きを行います。
  5. 信頼できる専門家を探しておく:
    • 弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家の助言を得ることで、法的・財務的な側面からも事業承継をサポートできます。

これらのポイントは、事業承継において円滑な過程と成功を迎えるための基本的な指針となります。

早期の着手をし、計画的に進める

事業承継は、5〜10年にわたり実施すべきとされる、長期的なプロジェクトです。

後継者の選定が即座に結論に至らないケースも少なくないため、将来を見越した早い段階での着手が不可欠です。後継者が確定しても、経営者としての自覚を培うには、社内で十分な実務経験を積ませることが必要であり、これは一朝一夕には実現しづらい課題です。

専門家の助言を得て、事業承継計画書を作成することも効果的です。これにより、以下のようなメリットが得られます。

  • 承継すべき社内の知的資産が明確化される
  • 事業承継税制の特例措置の申請において「特例承継計画策定」に活用可能
  • 後継者や従業員、取引先などからの信頼を築く

これらのメリットを享受することで、計画的に事業承継を進めることが可能となります。

事業の継続・成長を担う適切な後継者の選定

事業を引き継ぎ、持続的な成長を遂げるためには、経営者としての適性が不可欠です。経営環境の変化に対応し、確実に事業を維持・拡大させていけるリーダーを選ぶ際には、次の4つのポイントが重要とされています。

経営ビジョンが明確である:
具体的で明快な経営ビジョンを持っている候補者が適しています。

・組織を率い、従業員を守る覚悟が備わっている:
強固なリーダーシップと従業員のサポートに対するコミットメントが求められます。

事業を成長させる意欲にあふれている:
積極的で意欲的な態度を持ち、事業を発展させる姿勢が必要です。

十分な実務能力がある:
経営業務を適切かつ効果的に遂行できる十分な実務能力が重要です。

複数の候補者がいる場合は、判定基準を示し、後継者の選定を進めることで後継者争いを防ぐことができます。また、経営者が健康上の理由などで働けなくなる前に、後継者の選定を早急に結論づけることも肝要です。

後継者の育成

後継者への綿密な教育により経営理解を深める

承継後、新たな経営者が会社を効果的に運営できないと、業績の悪化が生じる可能性があり、これは望ましくありません。

後継者には十分な教育期間を提供し、段階的に経営者としての心構えを教授すると同時に、経営理念や経営者としての価値観を共有していくことが重要です。

社内での後継者教育には、以下のステップが含まれます。

主要部門の経験を積ませる:
営業、労務管理、財務など主要な部門での経験を通じて、社内の業務プロセスを理解させます。

経営上の役割を担わせる:
徐々に経営上の意思決定や対外交渉を任せ、責任感や使命感を徐々に醸成させます。

直接指導と情報引き継ぎ:
現経営者からの直接指導を通じて、今後の事業計画や経営情報、知的資産などを漏れなく引き継がせます。

これにより、後継者はスムーズかつ効果的に経営の舵取りを行うための準備が整い、企業の安定的な成長を促進できるでしょう。

生前贈与と遺言書を活用する

親族間での相続に関わる問題を回避するためには、以下の2つのアプローチが重要です。まず、生前贈与を通じて相続時の財産を削減し、次に遺言書を用いて相続に関する方針を明確に示します。

急逝や急病により就業継続が難しくなる状況は予測できないものです。そのため、将来の相続を見据え、具体的な方針を示した遺言書を早めに作成することが重要です。

通常、作成される遺言書には以下の3つの方式があります。

自筆証書遺言

略式に自分で書け、かつ費用が発生しないため、一般的に広く利用されている形式が自筆証書遺言です。法務局の「遺言書保管制度」を利用することもできますが、その簡便さゆえに書式が自由なため、争いの原因となりやすく、本人が保管していた場合には見過ごされるリスクがあります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人が作成する遺言書です。確実性が高く、争いも少ない傾向があります。公証人が自宅や病院などに出向いて作成する方法もありますが、作成には一定の費用がかかり、相続財産の金額によって変動します。例えば相続財産が1億円の場合、手数料を含めて5万円程度が目安です。

信頼できる弁護士に相談する

弁護士には、事業承継に注力している弁護士もいます。弁護士であれば、他の士業と連携して、相続税を最適化する方法や継承者争いを未然に防ぐ方法などの提案をしてくれます。

実力のある事務所または弁護士を見極めて相談してみることをおすすめします。

弁護士費用について知りたいなら以下の記事を参照!

まとめ

事業承継が完了するまでには、相続税や株式の分散などの予期せぬ課題や、取引先の離反などさまざまなトラブルが発生する可能性があります。これらの問題を未然に防ぐために努力しつつ、もしトラブルが生じた場合にはそれを乗り越えていく必要があります。

企業の資産だけでなく、取引先やノウハウなどの知的資産を円滑に引き継ぐためには、将来のリーダーとして期待できる後継者を早期に見極めることが不可欠です。

後継者の育成には、社内でのジョブローテーションや経営者からの直接指導期間などが含まれ、これには数年間かかることが一般的です。結果として、実力のある新しいリーダーが育成されれば、組織として新たな成長の原動力が得られるでしょう。これは従業員や新たな経営陣、取引先、金融機関など、企業に関わる全ての関係者にとってプラスになることでしょう。

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