会社の相続トラブル事例を紹介|対処法についても解説

事業承継により、これまでの経営者から子どもなどが新たな指導者となり、その事業を引き継ぐケースがあります。

新たな経営者が事業を引き継ぐ際には、様々な問題が発生する可能性があります。しかし、これらの課題を克服しなければ、企業経営を将来にわたり成功させることは難しいでしょう。

具体的には、どのようなトラブルが発生するのか、そしてそれらの問題をどのように解決していくべきかについて、以下で解説していきます。

目次

会社の相続トラブル事例

深刻な事態に見舞われた会社の相続トラブル事例をご紹介します。

この会社は、サービス業を営んでいました。経営はワンマンで、社長の広範な人脈が事業の基盤でした。

社長には3人の子供がおり、長男と下の2人は異なる母親を持っていました。長男の最初の配偶者が病気で亡くなり、しばらくして新しい配偶者との間に2人の子供が生まれました。長男と継母の関係は複雑でしたが、社長の前では表立った問題はありませんでした。

後継者には内心では長男を指名し、専務に任命していましたが、この決定は社内外には相談されず、具体的な計画は明らかにされませんでした。このような状況は、ワンマン経営者によく見られるものでした。

突如として社長の承継問題が発生し、社内は混乱に陥りました。社長の後継に対する意向は長男を専務に据えることだけであり、一定の株式も譲渡されましたが、絶対的な経営権は不足していました。急死後、専務が新社長に就任し、これが継母との戦いの幕開けとなりました。

相続に関連する財産争いが裁判となり、社外株主を巻き込んだ買収合戦が勃発しました。社外株主たちは創業者社長に共感し、どちらを支持すべきか迷ってしまいました。

数年にわたり、裁判と経営権争奪戦が続き、最終的に継母側が勝利しました。継母が会長となり、その子供が社長に就任し、長男は追放されました。

数年が経過し、継母とその子供による素人の経営は失敗に終わりました。継母は経営権を持ってはいるものの、名ばかりの役職で、子供は解任され、銀行からの派遣社長が実質の経営トップとなりました。

こうしたトラブルは社内だけでなく、取引先など社外の関係者にも疑念を生み出し、結果として企業の経営が困難になりました。創業者が遺言など形を残していれば、こうした問題は回避できた可能性があり、この事例は非常に遺憾であると言えます。

会社で起きやすい相続トラブル5つ

企業のトップが交代する際、事業承継は相続トラブルに発展しやすい。

具体的には、どのようなトラブルが発生するのかを知っておきましょう。

会社の相続トラブル1|後継者がいない

経営者が亡くなり相続が発生すると、新たな経営者を選ばなければなりません。

しかしこの過程は容易ではなく、特に先代経営者が急逝し後継者が確定していない場合、その選定には複雑な問題が生じることがあります。

親族の中で後継者が見つかる場合は、迅速にその人を中心にして後継者を決定する必要があります。同様に、経営において先代経営者に近しいポジションにある人物が、当面の後継者として選ばれることもあります。

親族でない場合でも、実質的な経営の中心人物が後継者となることがあります。また、先代経営者の子どもが社外にいる場合には、その子を会社に迎え入れることも検討されるでしょう。

経営陣が不在の状態は企業にとって望ましくないため、ますます重要なのは当面の経営者を迅速に選出することです。

会社の相続トラブル2|会社の株の相続にかかる高額な税金

先代経営者は、時に大量の会社株を所有していることがあります。中には、その経営者が全ての株式を保有しているケースも考えられます。

先代経営者が経営から退く際に、後継者がこれらの株式をどのように引き継ぐかは重要な問題となります。特に、先代経営者が亡くなった場合は、その株式の相続者を迅速に決定しなければなりません。

株式の相続により、相続税の負担が著しく増加する可能性もあります。また、先代経営者が存命中であっても、株式を後継者に贈与する場合は、多額の贈与税が発生することがあります。

特に相続のケースでは、相続発生後に発生する高額な税金を回避することは難しい場合があります。そのため、相続や事業承継を考える前に、対策を練り、十分な時間をかけて実行することが必要です。

会社の相続トラブル3|複数の相続人が株式を相続する場合

先述の通り、先代経営者の死亡に伴い株式の相続が発生すると、相続税の膨大な負担が発生する可能性があります。

通常は、後継者が多くの株式を相続し、それによる経営の円滑な継続を確保する必要があります。しかし、相続税の負担や相続人間の公平な権益配分を考慮して、他の相続人も会社の株式を相続することがあります。

複数の株式を所有することで、株主総会において経営者の意向をより反映しやすくなります。ただし、他の相続人が株式を取得する場合、単独で経営者の意思を実現することが難しくなります。

特に、他の相続人が株式を所有することで、経営者が単独で会社の運営を行うことが難しくなり、会社の代表者が変更される可能性も考えられます。後継者が過半数の株式を取得できるよう、事前に対策を講じることが重要です。

生前贈与や遺言書の作成など、亡くなる前に検討しておくことが賢明です。

会社の相続トラブル4|取引先からの拒絶に直面する可能性も

後継者が確定し、新たな経営者のもとで企業が再スタートを切る場合でも、すべてが順調に進むわけではありません。

これまでの取引が築かれてきた業者の中には、先代経営者との個人的なつながりが強い人物も存在します。そのため、先代経営者が退くと、取引が中断される可能性があります。

事業の円滑な引継ぎを確保するためには、先代経営者が現職にある段階で対処する必要があります。

取引先とのつながりを維持するためには、先代後継者と後継者が協力して主要な取引先に挨拶に訪れたり、ネットワークを築いたりするなどの手段が必要です。

会社の相続トラブル5|従業員の理解が得られない

事業承継において生じる問題は、外部との関係だけでなく、社内の懸念も考慮する必要があります。

後継者に対して、従業員の中に不満が生じる可能性もあります。例えば、先代経営者の子が後継者となった場合、その者が経験不足であることから不満が生じることが考えられます。同様に、外部から後継者を招いた場合、会社の実情や課題に対する理解が不足しており、不満を抱く従業員が現れる可能性もあります。

従業員が事業承継に対して不満を抱かないようにするためには、後継者には事前に会社の状況を詳細に理解してもらう必要があります。同時に、従業員に対しては、先代経営者が経営から退くことを突然伝えるのではなく、事前に計画的かつ適切に伝達する工夫が必要です。

会社のトラブルを避けるためには?

事業承継においては、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。しかし、これらのトラブルを未然に防ぐためには、事前に適切な対策を講じておくことが重要です。

どのような対策が有効であり、どの点に注意するべきかについて、以下で詳細に説明します。

対処法1|自社株の評価額の引き下げ

自社株の評価額を引き下げるという言葉には、否定的な印象を抱く方もいるでしょう。しかし、事業承継を円滑に進め、後継者に会社の経営権をスムーズに移譲するためには、これが非常に重要です。

株式の評価額を引き下げることで、先代経営者が亡くなった際の相続税額を減少させることが可能です。

同様に、株式の評価額の低下により、後継者への株式贈与に伴う贈与税額も軽減できます。自社株の評価額を引き下げるには、さまざまな対策が考えられます。

非上場企業の評価額は通常高めになる傾向があるため、上場を目指すことも一つの手段です。また、会社の保有する資産に含まれる益を得るために、売却することも有益です。

一方で、会社を赤字にすることで評価額を低く抑えることも可能ですが、この際には会社の運営に支障が生じないよう留意する必要があります。

いずれの対策をとるにせよ、実際に評価額が下がるまでには時間がかかるため、計画的かつ長期的な取り組みが求められます。

対処法2|先代経営者の株式保有量を減少させる

事業承継において問題となる要因の一つは、先代経営者が所有していた株式です。

このため、先代経営者が保有している株式を事業承継の前に削減することで、潜在的なトラブルの可能性を軽減できます。

事業承継を実施する前に、経営者が所有する株式を後継者や子どもに贈与することで、事業承継時に発生する税金を軽減することができます。

ただし、無計画な贈与は多額の贈与税が発生する可能性があります。このため、年間110万円の基礎控除を活用し、何年もにわたり段階的に贈与する計画を立てることが重要です。

この手法を用いる場合は、事業承継前に十分な期間をかけて贈与を進めることが求められます。

対処法3|後継者の選定と育成

事業承継が突如として必要となった場合、後継者を決定するプロセスがスムーズでないと、論争の余地が生じる可能性が高まります。

したがって、先代経営者がまだ現職である段階で後継者を候補者として選定し、事業承継が発生しても円滑に引き継げるようにしておくことが重要です。

後継者を早い段階で決め、自身の業務内容を引き継ぎながら会社の状況を伝えていくことが可能です。

同時に、従業員や取引先にとっても、後継者として認知される時間を確保できるため、周囲の理解も得やすくなります。

突然の後継者指名や後継者未定のまま現役を退くことを防ぐために、事前に適切な準備を進めておくことが必要です。

対処法4|事業承継税制の活用

事業承継において、相続税や贈与税の負担が膨らむことが一般的です。

このため、事業承継税制を活用することで、税負担を極力軽減できます。

後継者を決定した場合、事業承継税制の枠組みを利用して株式を贈与すると、贈与税が一定期間猶予されることがあります。

また、相続税の事業承継税制を適用することで、相続に伴う株式の評価額に対する相続税の支払いも猶予されます。

ただし、事業承継税制の適用には多くの要件があり、具体的な贈与や相続を行う前には特例承継計画を提出し、その認定を受ける必要があります。

したがって、事業承継を検討する際には、すぐに利用できるわけではなく、事前の準備が欠かせないことに留意する必要があります。

会社の相続トラブルが起きてしまったら

会社の相続トラブルが起きた場合の対処法は、弁護士に相談することです。

弁護士については、相続を専門で扱っている弁護士を選ぶことが重要になります。事務所によって、力を入れている分野が異なるため、ホームページなどを見て選ぶと良いでしょう。

まとめ

会社の事業承継は、単に株式を子どもに引き継ぐだけでなく、経営権を後継者に移譲するだけでもありません。

後継者を決定したら、その後継者には会社の現状や事業戦略など、幅広い事項を理解してもらう必要があります。

同時に、従業員や取引先など、多くのステークホルダーに事業承継計画を理解してもらい、円滑に進展させるためには事前の準備が不可欠です。

事業承継にはトラブルのリスクが伴いますが、適切な対策を講じることでこれを回避できます。そのため、事前に対策を怠らないよう留意しましょう。

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