一人っ子の遺産相続について解説。メリットとデメリットは?

一人っ子の場合、遺産相続に関する不安が生じることがあります。遺産分割において、兄弟姉妹がいないため、特に心配する必要がないと感じる方もいるでしょう。しかし、実際にはいくつかのポイントに留意する必要があります。一人っ子の方が考慮すべき注意点と、今から始めておくべき相続対策について解説します。

目次

一人っ子と兄弟姉妹がいる場合の相続の違いは?

一人っ子の相続

一人っ子と兄弟姉妹がいる場合の相続において、主な違いは相続税の計算に影響が出る点です。相続税は、相続財産から基礎控除額を差し引いた額に課税されます。この基礎控除額は、法定相続人の人数によって異なります。相続人が多いほど基礎控除額が大きくなり、相続税額が軽減されます。

ただし、一人っ子の場合は相続人が一人であるため、基礎控除額が比較的少なくなり、相続税の納税額が高くなる可能性があります。その一方で、兄弟姉妹との相続争いが発生せず、相続財産を一人で独占できる利点があります。

ただし、相続財産が不動産だけの場合、相続税を支払うためには現金が必要です。特に一人っ子の場合は基礎控除が少ないため、相続税の支払いに苦しむことがあります。このため、適用される特例や小規模宅地等の評価減の特例を活用することが検討されます。これにより、特定の条件を満たす宅地については、その評価額を減額して相続税の計算を行うことが可能です。

相続においては、具体的な状況に合わせた専門家のアドバイスを受けながら、適切な相続対策を検討することが重要です。

相続人がいないと財産は国庫帰属になる

両親の財産を最終的にすべて相続した一人っ子が、結婚しておらず子どももいない、祖父母ももう亡くなっている状況では、まったく相続人がいないということになります。このようなケースでは、遺言がなくかつ「特別縁故者」もいない場合、遺産は国庫に帰属することになります。

内閣府が公表する「令和4年版 少子化社会対策白書」のデータによると、生涯未婚率は今後も上昇すると見込まれており、未婚の人が増えることによって、相続人(子ども)がいないというケースが増えていくと予想されます。令和2年(2020年)時点でのデータでは、男性の生涯未婚率が28.3%、女性が17.8%となっており、約4人に1人の男性、約6人に1人の女性が独身であることが示されています。

未婚率の上昇に伴い、これからも相続人がいない状況が一般的になる可能性があります。これらの情報を踏まえ、遺産の処分や相続に関する計画を立てる際には、専門家の助言を受けることが重要です。

一人っ子が遺産相続の際するべきこと

相続人を調査する(相続人の確定)

親の相続人となる子どもは、自分以外にはいないと思っていても、被相続人(亡くなった方)の前婚の子どもや隠し子(婚外子)がいる可能性があります。そのため、本当に自分以外に相続人がいないかを確認する必要があります。前婚の子どもや認知されている婚外子がいる場合、他の相続人がその存在を知らなかったとしても、その子どもは相続人になります。また、被相続人が養子縁組をしていた場合、養子にも実子と同様に相続権があります。

本当に一人っ子かどうかを確認するには、被相続人の戸籍をたどっていくしかありません。被相続人の死亡時から出生時まで遡って全ての戸籍を調べることで、他の子や養子の有無を確認することができます。

他の子どもが見つかったときには、その子どもも法定相続人ですので、その子どもも含めて遺産分割をする必要があります。

遺言書の調査・検認

一人っ子であっても常に親の財産を相続できるわけではありません。被相続人が、第三者に全部の財産を遺贈するという遺言を残していたら、一人っ子でも遺留分侵害額の請求しかできませんので、遺言書が存在していないか、調査・確認をする必要があります。

遺言書には、通常の作成方式として、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があります。自筆証書遺言とは、遺言者が手書きで作成する遺言のことです。公正証書遺言とは、公証人の前で遺言者が遺言書の内容を説明し、公証人が遺言書を作成するものです。秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言書を封印して公証人に提出し、公証人が作成日などを記録するものです。

この中で、公正証書遺言を探すのは簡単です。平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、全国どこの公証役場からでもデータベースで検索することができるからです。したがって、相続人の方がご自宅の近くの公証役場に行けば、簡単に調べることができます。

自筆証書遺言と秘密証書遺言にはそのような検索システムがないので、被相続人が使っていた、タンスや金庫、書斎の引き出しなどを探すしかありません。これらの場所から見つからなかった場合でも、銀行の貸金庫や弁護士などに預けている可能性があります。

ただし、令和2年(2020年)7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が開始されました。こちらの制度を利用した場合、遺言書保管法11条が適用されるので検認も不要になります。この制度を遺言者が利用していれば、遺言者が亡くなった後、遺言書が保管されているか否かを相続人等が確認できることになります。

封印された遺言書が発見された場合、これを家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立ち会いのもと開封する必要があります。封印された遺言書は家庭裁判所で開封して検認が行われることになります。開封や検認の手続きに違反すると5万円以下の過料に処せられます。 検認が終わると、裁判所で、遺言書の「検認済証明書」を発行してもらうことができます。相続に関する手続きで遺言書を使用する際には、この検認済証明書が必要となります。なお、公正証書遺言の場合は、開封手続きも検認も必要ありません。

故人の財産調査

相続の手続きを始めるためには、故人がどのような財産を持っていたかを調べる必要があります。これは主に相続税の申告に必要な情報を集めるためです。また、故人が借金を抱えていた場合や相続放棄や限定承認を検討する場合には、それらの手続きには期限があるため、迅速に調査を行う必要があります。

具体的に調査すべき項目は、預貯金、有価証券、不動産、借金、保証などです。預貯金や株などの有価証券は、故人宛の郵便物や通知などを手がかりにしながら、取引があった可能性のある金融機関(銀行、証券会社など)に問い合わせることが一般的です。不動産については、権利証や固定資産税の通知書などを元に法務局や市町村に確認することが必要です。

借金や保証の有無については、契約書や関連する書類がないか故人の自宅などを探してみましょう。特に、被相続人が連帯保証人になっていた場合、相続人が債権者から返済を請求される可能性があるため、慎重に確認する必要があります。督促の郵便物や預金の引き落とし状況なども注意深く確認しましょう。また、信用情報機関(JICC、CIC、KSCなど)に照会することも一つの手段です。

仕事の都合などで相続人が自ら調査するのが難しい場合には、弁護士などの専門家に財産調査を依頼することも検討しましょう。専門家は豊富なノウハウを持っており、正確かつ効率的な財産調査が期待できます。

一人っ子に遺産分割協議書は必要か?

遺産分割協議書が必要かどうかは、一人っ子であるかどうかではなく、相続人が複数いるかどうかに依存します。要するに、一人っ子が親の不動産を相続登記する場合でも、相続人が2名以上(たとえば、死亡した親に配偶者がいる場合など)いる場合には、遺産分割協議書が必要になります。

一方で、相続人がひとりしかいない場合は、遺産分割協議書を作成せずに、相続する不動産を自分の名義に相続登記することができます。ただし、親の出生からの戸籍謄本を取得し、相続人が自分ひとりであることを法務局に示す必要があります。

一人っ子が相続する場合に注意すべき「二次相続」について

相続においては、「一次相続」だけでなく「二次相続」にも留意する必要があります。一次相続は、両親のうち一方が亡くなった場合の最初の相続を指し、二次相続は、一次相続が終了した後にもう一方の親が亡くなった場合の2回目の相続を指します。

なぜなら、一次相続において配偶者の相続分が大きい場合、一時的な相続税の負担が軽減される可能性がありますが、二次相続では子どもが大きな負担を負う可能性があるからです。特に一人っ子の場合、最終的には両親の遺産を一人っ子が全て相続することになり、二次相続において多額の相続税が発生する可能性があります。

親子関係が悪い場合は、相続で争いが生じる可能性もあります。親が仲の悪い一人っ子に財産を残さないために友人や団体に遺贈することも考えられます。ただし、その場合でも相続人である子どもは「遺留分」を主張できる権利があります。遺留分は相続財産における最低限の取り分を指し、侵害された場合は遺留分侵害額請求を行うことで取り戻すことができます。

ただし、遺留分侵害額請求権は金銭債権であり、不動産の共有持分を取得する権利ではありません。以前は遺留分減殺請求という制度が存在し、行使すると贈与や遺贈された財産全体が共有状態になり、解決が難しい場合がありましたが、令和元年7月1日以降の相続からは遺留分侵害額の請求という制度に変わり、侵害された遺留分相当額の金銭を請求できるようになりました。

一人っ子の相続において適切な相続税対策

相続税対策の一環として、代表的な手段として挙げられるのは「生前贈与」です。

生前贈与は、文字通り生前に財産を贈与することを指します。この方法を利用することで、相続財産を事前に減らすことができます。相続税に比べて贈与税の税率は高いですが、年間110万円までの贈与は非課税となるため、毎年110万円以内で贈与を行うことで、最終的には相当な税金の節減が期待できます。

例えば、相続予定の人に毎年100万円を10年間贈与することで、相続財産を合計で1000万円減らすことが可能であり、これにより相続税の軽減が期待できます。ただし、相続前の3年間に行った贈与はみなし相続財産とみなされ、相続税がかかる点に留意が必要です。

まとめ

兄弟姉妹がいない一人っ子の遺産相続においても、損をしないために把握しておくべきポイントがあります。

遺産相続はいつ発生するか予測が難しいものですが、事前に対策を講じることでトラブルを回避できる可能性が高まります。そのため、親が生前のうちに相続に関する話し合いを行っておくことが重要です。

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