実家や他の不動産が共有名義になっているケースは少なくありません。典型的な例としては、夫婦が共同で自宅を購入した場合が挙げられます。また、相続が発生して同居していない親族が共同で所有権を有していることもよく見られます。こういった共有名義の不動産をそのままにしておくと、相続トラブルが発生しやすいことをご存知でしょうか。この記事では、共有名義の不動産がトラブルの原因となる理由や、それに対処する方法について、詳しく解説いたします。
不動産の共有名義トラブル事例|疎遠な兄弟が音信不通
特定の不動産が共有名義となる事例の一つとして、親が単独でその所有権を有していたが、遺言を残さなかったために兄弟間で共有されることになったケースがありました。
通常であれば、相続人全員が協議を行い、相続人の一人が単独で所有するか、あるいは不動産を売却し得た代金を法定相続分に基づいて分割するといった手続きが行われます。
しかし、この具体的なケースでは、元々兄弟同士が疎遠であったため、不動産は共有のまま放置されてしまいました。そして10年ほど経過した後、相続人の一人が不動産を売却したいと希望しました。
しかし、その時点で既に、兄弟の一方との連絡が取れず、不動産を処分することも難しい状況となっていました。
共有名義の不動産が相続トラブルに繋がる理由とは?
相続した不動産が共有権を有する場合に相続トラブルが生じる主な理由には、いくつかの要因が挙げられます。以下では、その代表的な理由をご紹介いたします。
理由①|相続人の合意が得られず、売却や賃貸が難しいため
共有とは、一つの物を複数の人が共同で所有する状態を指します。共有者はその共有物に対する共有持分権を有しています。これに対し、物を一人で所有する状態は「所有」と呼ばれ、所有者は物を自由に使用したり、売却したり、他人に賃貸したりすることが可能です。
しかし、共有の場合、共有者は単独で物を売却することが認められていません。これは、民法において「共有物の処分については共有者全員の同意が必要である」と規定されているためです。
共有不動産を第三者に賃貸しようとしても、単独では賃貸借契約を締結することが難しい場合があります。賃貸借契約の締結に関しては、共有者全員の同意が必要か否かについての争いがある場合でも、「少なくとも共有持分の過半数の同意が必要」と考えられます。
このため、相続によって不動産が共有となる場合、共有者間で意見が一致しないと売却や賃貸が難しくなります。結果として、不動産が有効に活用されずに放置される可能性が高まります。
理由②|共有持分に応じた賃料を請求されるため
不動産が共有されている場合、各共有者は共有持分にかかわらず、独自に不動産の全体を利用することができます。たとえば、共有されている不動産が住居である場合、一つの共有者が他の共有者の同意を得ずにその住宅を使用でき、他の共有者はこれを追い出すことができません。
ただし、単独で不動産を使用している共有者は、共有持分に応じて他の共有者に対して賃料相当額を支払う必要があります。これにより、妥当な賃料額についての争いが発生する可能性があります。こうしたリスクも考慮され、共有された不動産は望まれる住み手が現れにくくなってしまいます。
理由③|共有者との連絡が絶たれるため
不動産が共有状態となる主な要因は相続であり、そのため共有者は通常親族で構成されます。しかし、最近では親族との結びつきが希薄になり、生活の拠点が故郷から遠く離れた場所であるケースが増加しています。
共有者との連絡が途絶えると、将来的に不動産を売却したいという意向が生じた場合、共有者を特定するために手間がかかります。また、共有者が特定できたとしても、関係が悪い場合は不動産の管理や処分に関する協議が難航する可能性が高まります。
さらに、共有者との連絡が絶たれたまま時間が経過すると、共有者が亡くなり、その子供や配偶者が不動産を相続している可能性も考えられます。この場合、誰が正確な相続人であるかを把握することも難しくなります。
共有名義の不動産の事前対策
もともと不動産が共有名義である場合や、相続後に共有となる見込みのある場合には、事前の対策が重要です。
単独名義への変更
すでに共有となっている不動産については、なるべく生前に単独名義に変更しておくことが望ましいです。ただし、通常、これには共有者に対する一定の金銭の支払いが必要です。
共有不動産の売却と現金化:おすすめ
最も簡便な対策は、共有不動産を売却して現金化することです。現金にしておくことで、相続人同士での分割割合が自由に設定できるからです。不動産のまま相続すると、物理的に分けられないため、現金化して相続することがおすすめです。
遺言書の作成
相続人が複数いる場合は、生前に遺言書を作成しておくことが重要です。共有状態を避け、特定の相続人に不動産を承継させるように指定します。
共有名義の不動産を相続する場合
共有不動産を所有者が生前に対策を講じずに亡くなった場合、以下はその対処法です。
共有不動産の遺産分割方法
前提として共有名義の不動産を長く持ってくことはおすすめしません。建て替えや売却の際に、共有者全員の同意が必要になります。
共有不動産を遺産分割するためには、現金にしてしまうのが一番手っ取り早く、トラブルになりずらいです。
遺産分割協議・調停
遺産分割には相続人全員の合意が必要です。話し合いが難しい場合は、家庭裁判所での遺産分割調停が選択肢となります。
共有者と連絡が取れない場合の対処法
共有者との連絡が取れない場合、不在者財産管理人の選任や、2021年4月28日に成立した改正民法により、裁判所を通じて行方不明の共有者の持分を強制的に取得することが可能となりました。改正法の施行は2023年4月頃と予想されています。
共有名義の不動産を相続するなら専門家に相談するべき
弁護士:おすすめ
相続した共有名義の不動産について円滑に遺産分割を進めたい場合は、弁護士に相談することが勧められます。また、生前対策を検討する場合は、将来の相続トラブルを防ぐために遺言書を弁護士に作成してもらうことができます。
税理士
相続税が一定額以上かかる場合、遺産分割の方法によって税額が変動する可能性があります。このため、税理士に相談すると良いでしょう。また、不動産オーナーや資産家は、生前から税理士に相談し、相続税対策を講じることが一般的です。
両親が不動産を所有し、子供が複数いる場合、事前の対策が賢明です。弁護士や税理士などの専門家に早めに相談することで、安心感が得られるでしょう。